宵の朔に-主さまの気まぐれ-
指を絡め合うと、無限の喜びを感じた。

この目が見えなくとも朔に見つめられているのは分かり、この目が見えていたら、どんな目で見ているのだろうかと考えると、‟渡り”を心底憎く感じて、一緒に横たわってすぐ傍にある朔の頬に触れた。


「ねえ…どんな目で私を見ているの?」


「それはすぐに分かる。‟渡り”が持っている目を奪い返して見えるようになったら、一番に俺を見てほしいって前にも言ったと思うけど。いや、最初に見るのは‟渡り”の顔かな。なかなか男前だったぞ」


「何よ‟渡り”の顔なんて見たくもないわ。あなた他の男を私に勧めてるわけ?私のことなんて愛してもないのね本当は」


「…愛してるよ。すごく深く」


ちゃんと‟愛してる”と言われたのはこれがはじめてで、嬉しくなってふわっと笑った凶姫にきゅんとした朔は、まだ汗に濡れている凶姫を抱きしめて腕枕をしてやると、先ほどの出来事を思い出して吹き出した。


「絡まれてたけど怖くなかったのか?」


「あんなの絡まれてるうちに入らないわ。私、遊郭に居たのよ?妬まれるなんて日常茶飯事だし、よく私物が無くなったし、いじめられてたんだから」


「お前みたいに美しくて教養のある女だったら妬みたくもなるだろうな。ところで、お前との関係を柚葉にちゃんと話そうと思う。関係性が壊れたらごめん」


「…いつかは知られることだもの、気にしないで。柚葉だって複雑だろうけれど分かってくれるわ。きっと大丈夫よ…嫌われても、私は柚葉を大好きだから」


「ん、俺も柚葉が好きだから罵られても嫌われても変わらない」


「好きですって?そんな軽々しく女に好きなんていう男、私好きじゃないわ」


「はいはい気を付けます。…芙蓉」


ひそりと耳元で真名を呼ばれて喜びに震え上がると、朔は両手で凶姫の頬を包み込んでもう一度、心を込めて告白した。


「芙蓉…愛してる」


「私もよ…朔…」


瞼に口付けをして、喜びに打ち震えている細い身体をやわらかく抱きしめた。
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