宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「朔、椿はどうだ」
「どうだ、と言われても…なんですか?」
――皆で朝餉を食べている時唐突にそう訊かれた朔は、箸を止めて十六夜を見つめた。
椿がここへ来てから二か月…まだ組み負かすことはできていなかったが、椿を倒すのはもう時間の問題と思えた。
「…いい女だと思わないか?」
息吹が食卓を離れた一瞬の隙にそう言われて、まさか十六夜は椿に手を出そうとしているのでは、と邪推したのが顔に出たのか、十六夜は口をへの字に曲げて首を振った。
「お前の想像は正しくない。いい女かそうでないかどちらだと訊いている」
「いい女ですよね?男だったら皆そう思うんじゃないですか?あと髪でも伸ばせばかなりいい女でしょうね」
「…分かった」
「いや、何が分かったんですか?」
父は無口で会話は長く続いたことがなく、それはいつものことなので気にはならないが――話の内容は気になる。
朔は頬をかいてごちそうさまでした、と頭を下げて食後少し眠るために自室に下がった。
「主さま、今のは訊き方が下手すぎるぜ」
「…だったらお前が訊けばよかったじゃないか」
「いやいや、俺が訊くのは不自然だろ。…そろそろってとこか?」
庭を掃いていた雪男の真っ青な髪が光に映えて目を細めた十六夜は、茶を飲みながら小さく頷いた。
「椿は朔に負かされるだろう。…その夜、行う」
「行うって…坊ちゃんの意思は?」
「だからさっきそれを訊いた」
「へたくそ」
睨み合っていると息吹が戻って来たため話をやめた十六夜は、隣に座って大きな目で凝視してくる息吹に身体を引いた。
「…なんだ?」
「椿ちゃん、今日もご飯食べてくれなかったんだけど」
「無理強いをするな。妖は本来人の食べ物など口にせん」
「仲良くなりたいのに全然なの。部屋に突撃しちゃおうかな」
「…やめておけ」
ふっと笑った十六夜とにこにこしている息吹を見遣ってため息をついた雪男は、箒の柄で肩を叩きながら呟いた。
「夢中にならないといいんだけどなあ」
それはどちらのことを指すのか――
それ以上誰も語らず、陽は上ってゆく。
「どうだ、と言われても…なんですか?」
――皆で朝餉を食べている時唐突にそう訊かれた朔は、箸を止めて十六夜を見つめた。
椿がここへ来てから二か月…まだ組み負かすことはできていなかったが、椿を倒すのはもう時間の問題と思えた。
「…いい女だと思わないか?」
息吹が食卓を離れた一瞬の隙にそう言われて、まさか十六夜は椿に手を出そうとしているのでは、と邪推したのが顔に出たのか、十六夜は口をへの字に曲げて首を振った。
「お前の想像は正しくない。いい女かそうでないかどちらだと訊いている」
「いい女ですよね?男だったら皆そう思うんじゃないですか?あと髪でも伸ばせばかなりいい女でしょうね」
「…分かった」
「いや、何が分かったんですか?」
父は無口で会話は長く続いたことがなく、それはいつものことなので気にはならないが――話の内容は気になる。
朔は頬をかいてごちそうさまでした、と頭を下げて食後少し眠るために自室に下がった。
「主さま、今のは訊き方が下手すぎるぜ」
「…だったらお前が訊けばよかったじゃないか」
「いやいや、俺が訊くのは不自然だろ。…そろそろってとこか?」
庭を掃いていた雪男の真っ青な髪が光に映えて目を細めた十六夜は、茶を飲みながら小さく頷いた。
「椿は朔に負かされるだろう。…その夜、行う」
「行うって…坊ちゃんの意思は?」
「だからさっきそれを訊いた」
「へたくそ」
睨み合っていると息吹が戻って来たため話をやめた十六夜は、隣に座って大きな目で凝視してくる息吹に身体を引いた。
「…なんだ?」
「椿ちゃん、今日もご飯食べてくれなかったんだけど」
「無理強いをするな。妖は本来人の食べ物など口にせん」
「仲良くなりたいのに全然なの。部屋に突撃しちゃおうかな」
「…やめておけ」
ふっと笑った十六夜とにこにこしている息吹を見遣ってため息をついた雪男は、箒の柄で肩を叩きながら呟いた。
「夢中にならないといいんだけどなあ」
それはどちらのことを指すのか――
それ以上誰も語らず、陽は上ってゆく。