宵の朔に-主さまの気まぐれ-
それからは、材料探しが始まった。

胸の病であちこち壊死した身体は廃棄せざるを得ず、何度も何度も躊躇して冥の頭部だけを切り落として保管した。

美しい胴体を。

美しい手足を。

清廉潔白だったその美しい魂に見合う身体を必ず作ってやる――


「そしてあの女の人…冥さんができたってこと…?」


「何十回も何百回も失敗したとも。それでも俺は諦めなかった。冥を生き返らせるために。冥に戻って来てもらうために作り続けた。そして何十年もかけて、ようやく成功したんだ」


いや――あれを成功と言うのか?


「…黄泉…さん…?」


「……冥は生き返った。だが、冥は死んでいた」


「どういう…こと?」


「魂が空っぽだったのさ。冥の魂は昇華していたんだ。たった一度の恋をして、それで満足して現世に未練などこれっぽっちもなかった。だから冥は生き返ったが、別人だった。冥という人格ではなかった」


自分の腕が悪かったのか?

こんな…冥であり冥でない女など、求めてはいない――


「だけど冥さんは動いてて…あなたを慕ってるわ。冥さんと同じじゃないの?」


「違う。冥はよく笑い、よく話した。だがあれは…表情はなく、ほとんど話さない。顔は冥であっても残りは違う。だが傀儡としては完璧だった。俺は最高傑作を作ったが、冥を生き返らせることには失敗した」


――ただの非道な男ではない。

愛した女を求めて傀儡にして、傍に居て欲しいと願った男…

その男が次に傍に置きたいと願った女が、凶姫。


「黄泉さん…姫様の目だけを奪ったのは何故?」


「…どうしてだろうなあ…生きていてほしいと思ったのかもな」


紅玉のような目をした美しい女。

冥と同じようにしてしまったならば、きっとまた失敗してしまう。

だから目だけを奪って、その女のように美しい女を作ろうと思った結果が、これ――


「黄泉さん…」


「同情などするな。俺はもう二度と傀儡を作れない。お前の言う通り、芙蓉に目をつけたのが俺の間違いだったな」


自虐的に笑い、俯く男。

柚葉は黄泉に手を差し出した。


「黄泉さん…姫様の目を見せて」


黄泉の心を奪った、その目を。
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