宵の朔に-主さまの気まぐれ-
声にならない声を上げる者の元へ駆けて行って救済する――その役割は、幼い頃からずっと続けてきた。

だがしかし――

空から降ってきた一組の男女は、自分と同じ役割を持ついわば同志だ。


「そんな…どうして…」


「お前の声が聞こえた。輝夜、ようやくお前は自分自身に正直になったな」


「あなたは…あなたは輝ちゃんがお腹から居なくなっちゃいそうになった時来てくれた天使様!?」


――金の髪に碧い瞳、朱い髪に赤い瞳の男女が自身が発光しているかのような光を放ちながら、ふわりと輝夜の元に着地すると、たまらず息吹が裸足のまま飛び出した。


「息災のようだな。お前の息子は今までよくやってくれた。あの方に代わって感謝する」


「あの方って…?え…ちょっと待って、輝ちゃんは…ここに居ていいの?」


目を見張る輝夜に極上の笑みを見せた男は、目を見開いたまま驚きのあまり話せないでいる輝夜の髪をくしゃりとかき混ぜた。


「どうした?饒舌なお前らしくない」


「ま…待って下さい。私は任を解かれたのですか?制約を破ったから?」


「制約とはなんだ?あの方はお前に制約など強いていない。お前自身が深く関わってしまって、お前自身が救済するべき者の道を逸らしてしまった時、確かにあの方はお前に罰を下したことはあったが、何か勘違いをしているようだな」


「ですが…ですが、鬼灯が…!」


男と女が顔を見合わせた。

そしてふっと笑い合い、女の方がくいっと顎を引いて不敵に笑んだ。


「お前はその実がどうなったか確かめたか?」


「い、いえ…確かめてませんが」


「検めろ。今すぐにだ」


訳が分からない――

まさか自分が救済される側に回っているのだろうか?


「輝夜、確かめてみろ。早く」


朔に急かされて、胸に宿っている鬼灯を口からゆっくり取り出して――掌に乗せて、見た。


「輝夜…!お前、それは…」


「ああ…そんな馬鹿な…」


鬼灯は爆ぜ、その中心にある実は――


真っ赤に、熟していた。
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