宵の朔に-主さまの気まぐれ-
蜜柑の皮を捲ったような鬼灯は赤く、また中心にある実も赤く――
柚葉の救出に向かった際、胸の中で急速に冷えてゆく鬼灯を感じていたのに…これは一体どういうことなのだろうか?
青々としているはずだと落胆するのがいやで今まで確認していなかった鬼灯は、完全に熟していた。
朔も輝夜も息吹も驚きのあまり声が出せず、金の髪の絶世の美貌の男は事の経緯を滑らかな低い声で語り始めた。
「お前は自己犠牲が強く、‟そうしなければ”と思い込んで身を投げ打って人々を救済してきた。そして‟何故こうしなければならないのか”と考えもしなかったな。これが使命なんだと思い込んでいた。確かにあの方はお前の命を救って、お前に欠けているものを取り戻すためには人々の救済が必要不可欠だと言ったな」
「はい、だから私は…」
「だからお前は自身の意思など反映させず、また考えてもいけないと思っていただろう?そこはあの方にも誤算だったんだ。それは謝らなければ」
「そんな…謝るなど…」
「だがあの方はそれをお前に示さなかった。お前がいつか気付き、いつか強く望むことがあれば、今まで俺たちの使命を手助けしてくれたお前を救済してやろう…だから今俺たちはここに居る」
――それはつまり、ここに居たいと強く望んだから?
柚葉を自分の力で救いたい、と強く思ったから?
まだ愕然としている輝夜に歩み寄った朱い髪の女は、ばしっと背中を叩いて輝夜をはっとさせると、その場に居た男全員が見惚れる艶やかな微笑を見せた。
「その実をどうするか知っているか?」
「いえ、知りません。何故熟しているのですか?」
「幼かったお前が我らの元へ来てから今日までどれだけ長い月日が経ったと思う?お前は何人救ったと思う?数えてもいないだろう?彼らのほぼ全員が望んだんだ。‟あの人が幸せになりますように”と」
「え…?」
「ねじ曲がった未来を正してくれたお前の幸せを願ったんだ。そしてお前は、お前自身の幸せをはじめて強く願った。時は熟した、とはこのことだ」
朔が輝夜の腕を強く握った。
輝夜は、掌の上に乗っている鬼灯の実に視線を落とした。
「それを口に含めば、お前に欠けているものが戻ってくる。それはあの方からの贈り物だよ。輝夜、祝福を受けろ。お前の旅はこれで終わりとする」
旅が、終わる――
欠けているものが、戻ってくる――
やっと…
やっと――
柚葉の救出に向かった際、胸の中で急速に冷えてゆく鬼灯を感じていたのに…これは一体どういうことなのだろうか?
青々としているはずだと落胆するのがいやで今まで確認していなかった鬼灯は、完全に熟していた。
朔も輝夜も息吹も驚きのあまり声が出せず、金の髪の絶世の美貌の男は事の経緯を滑らかな低い声で語り始めた。
「お前は自己犠牲が強く、‟そうしなければ”と思い込んで身を投げ打って人々を救済してきた。そして‟何故こうしなければならないのか”と考えもしなかったな。これが使命なんだと思い込んでいた。確かにあの方はお前の命を救って、お前に欠けているものを取り戻すためには人々の救済が必要不可欠だと言ったな」
「はい、だから私は…」
「だからお前は自身の意思など反映させず、また考えてもいけないと思っていただろう?そこはあの方にも誤算だったんだ。それは謝らなければ」
「そんな…謝るなど…」
「だがあの方はそれをお前に示さなかった。お前がいつか気付き、いつか強く望むことがあれば、今まで俺たちの使命を手助けしてくれたお前を救済してやろう…だから今俺たちはここに居る」
――それはつまり、ここに居たいと強く望んだから?
柚葉を自分の力で救いたい、と強く思ったから?
まだ愕然としている輝夜に歩み寄った朱い髪の女は、ばしっと背中を叩いて輝夜をはっとさせると、その場に居た男全員が見惚れる艶やかな微笑を見せた。
「その実をどうするか知っているか?」
「いえ、知りません。何故熟しているのですか?」
「幼かったお前が我らの元へ来てから今日までどれだけ長い月日が経ったと思う?お前は何人救ったと思う?数えてもいないだろう?彼らのほぼ全員が望んだんだ。‟あの人が幸せになりますように”と」
「え…?」
「ねじ曲がった未来を正してくれたお前の幸せを願ったんだ。そしてお前は、お前自身の幸せをはじめて強く願った。時は熟した、とはこのことだ」
朔が輝夜の腕を強く握った。
輝夜は、掌の上に乗っている鬼灯の実に視線を落とした。
「それを口に含めば、お前に欠けているものが戻ってくる。それはあの方からの贈り物だよ。輝夜、祝福を受けろ。お前の旅はこれで終わりとする」
旅が、終わる――
欠けているものが、戻ってくる――
やっと…
やっと――