宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「鬼灯様、その実を食べて下さい。あなたがずっと望んでたことでしょう?」
「そうなんですけど…これを食べれば私は変わるんですか?」
「変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。身をもって体験するといい」
「全く…あなたは相変わらず哲学的ですね」
ようやく笑みを見せた輝夜は、固唾を呑んでいる朔を安心させるようにふわりと微笑んだ。
「兄さん、私が何か変わっても変わらず愛してくれますか?」
「もちろん。何も心配するな。俺がついてる」
その言葉がとても心強く、輝夜はこくんと頷いた後、励まし続けてくれた柚葉を見つめた。
「怖いですか?でも大丈夫ですよ、主さまもついてます。私も…傍に居ますから」
「そうですね…少し怖いですが、兄さんやあなたが傍に居てくれるから…」
こんな自分を愛してくれた父と母。
そして多くの弟妹たち。
彼らが見守る中――輝夜はその熟した実を口にして、飲み込んだ。
――しばらく経っても、何か劇的に変わるようなことは起きなかった。
これで何か変わったのか?と首を傾げていると――金の髪の男が美しい美貌で無邪気に笑って吹き出した。
「何も変わった気がしないか?」
「しませんね。私…何か変わりました?」
「劇的に起きるものではない。だが必ず変わっている。お前がずっと求めていたものだ。だから、見れば分かる」
「見れば…?」
金の髪の男が目配せで隣を指した。
隣には柚葉が居るのだが――まだそちらに目を向けていなかった輝夜は、隣に目を遣って心配そうに見上げてきている柚葉と目が合うと、心臓がどくんと脈打ってよろめいた。
「鬼灯様!?大丈夫ですか!?」
「これ、は……」
「お前に欠けていたものだよ。お前はその名を知っている。知っているが、それがどういうものなのかを感じることはできなかった。与えられても、与えることができなかった。だからお前は全ての人々に平等にそれを与えようとしていた。‟きっとこういうものだろう”と仮定しながら」
柚葉と話していると、触れていると――無性にそれを感じる瞬間が何度もあった。
だがそれは身の内に欠けているものだ。
自分が持っているはずはないけれど、だけれどもし自分にそれが戻って来たならば、柚葉に与えたい、と思っていたのは確かだ。
「そうか…これが…」
その名を、呟いた。
「そうなんですけど…これを食べれば私は変わるんですか?」
「変わるかもしれないし、変わらないかもしれない。身をもって体験するといい」
「全く…あなたは相変わらず哲学的ですね」
ようやく笑みを見せた輝夜は、固唾を呑んでいる朔を安心させるようにふわりと微笑んだ。
「兄さん、私が何か変わっても変わらず愛してくれますか?」
「もちろん。何も心配するな。俺がついてる」
その言葉がとても心強く、輝夜はこくんと頷いた後、励まし続けてくれた柚葉を見つめた。
「怖いですか?でも大丈夫ですよ、主さまもついてます。私も…傍に居ますから」
「そうですね…少し怖いですが、兄さんやあなたが傍に居てくれるから…」
こんな自分を愛してくれた父と母。
そして多くの弟妹たち。
彼らが見守る中――輝夜はその熟した実を口にして、飲み込んだ。
――しばらく経っても、何か劇的に変わるようなことは起きなかった。
これで何か変わったのか?と首を傾げていると――金の髪の男が美しい美貌で無邪気に笑って吹き出した。
「何も変わった気がしないか?」
「しませんね。私…何か変わりました?」
「劇的に起きるものではない。だが必ず変わっている。お前がずっと求めていたものだ。だから、見れば分かる」
「見れば…?」
金の髪の男が目配せで隣を指した。
隣には柚葉が居るのだが――まだそちらに目を向けていなかった輝夜は、隣に目を遣って心配そうに見上げてきている柚葉と目が合うと、心臓がどくんと脈打ってよろめいた。
「鬼灯様!?大丈夫ですか!?」
「これ、は……」
「お前に欠けていたものだよ。お前はその名を知っている。知っているが、それがどういうものなのかを感じることはできなかった。与えられても、与えることができなかった。だからお前は全ての人々に平等にそれを与えようとしていた。‟きっとこういうものだろう”と仮定しながら」
柚葉と話していると、触れていると――無性にそれを感じる瞬間が何度もあった。
だがそれは身の内に欠けているものだ。
自分が持っているはずはないけれど、だけれどもし自分にそれが戻って来たならば、柚葉に与えたい、と思っていたのは確かだ。
「そうか…これが…」
その名を、呟いた。