宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔たちは彼らの話の内容が分からず、ただ目を白黒させていた。

だが輝夜は晴れやかな表情をしていて、何度も胸を摩っては照れくさそうにしていた。


「輝夜…大丈夫か?」


「大丈夫ですよ。兄さん、私はどこか変わっているように見えますか?」


「見えない。でも欠けているものが戻ってきたんだろう?お前はそれを感じるか?」


「ええ、感じますよ。これがそうなのかと思うと…ふふ、少しふわふわする感じです」


柚葉は、なかなか自分の方を見ない輝夜がもしかして意識的にこちらを見ないようにしているのではと思い、輝夜の正面に回り込んで目を合わせようとした。

だが輝夜はくるりと背を向けて息吹の元へ向かうと、小さなその手を握って頭を下げた。


「母様、ようやくあなたから頂いたものが全て戻って来ました」


「輝ちゃん…良かったね、これでもう旅も終わるんだよね?朔ちゃんの傍に居てくれるよね?」


「はい。そうしたいんですけど…」


「鬼灯様。ちょっとこっちを見て下さい」


柚葉が声をかけてみたが輝夜は縁側に居る雪男に笑いかけて胸を逸らした。


「完全体になった私はいかがですか?」


「なんも変わってねえよ。それよか柚葉が怒ってるぞ」


「怒っていることに気付いてはいたんですが、ちょっとお嬢さんと目を合わせづらいんですよ」


「どうしてですか?私が何かしました?目を逸らすなんて傷つくじゃないですか」


「ちょっと時間を下さい。ところで…私は本当に旅をやめていいんですか?」


天から舞い降りてきたふたりは、静かにこくんと頷いた。


「あの方がお前に授けた力を返してもらおうか」


ああ、本当にもう旅を終えてもいいのか。


――輝夜も静かにこくんと頷いて、彼らに歩み寄った。
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