宵の朔に-主さまの気まぐれ-
金の髪の男が輝夜の額に人差し指をあててひそりと囁いた。


「ところであの娘と両想いになれそうなのか?」


「ええまあ一応告白はされましたけど…私はこの想いをどう伝えればいいんでしょうか?」


「ふふ、そこはまあ自分で考えればいい。お前が取り戻したものは燃え上がる炎のようなものであり、穏やかな光のようなものだ。共に日々を過ごしていけばその感覚は必ず芽生える。焦るなよ」


ひそひそ話をしていると、柚葉が刺すような目で見てきたため、若干焦った輝夜はひそひそ話をやめて男に問うた。


「ちなみに私は今から何をお返しするんでしょうか?」


「人々の救済を求める声を聞く力と、未来を見通す力を返してもらう。まあ後者は聡いお前だから返してもらってもさして変わらないとは思うが」」


「え…ですが私には他にも多くの力があります。それも全てお返ししなければ」


「いいや、お前が持っている力は全てお前が持って生まれたものだ。お前は母方から多くの力を受け継いでいる。そして俺はお前から力をいくつか返してもらうが、最後にあの方からの贈り物を授けていく」


「え…?」


「目を閉じるんだ。輝夜…これでお別れだな」


――彼らは幼い自分を我が子のように育てて、力の使い方を教えてくれた第二の父母のような存在。

目を閉じればもう会えなくなるのかと思うと躊躇してしまって戸惑っている輝夜の足を思い切り踏みつけたのは、朱い髪の女だ。


「早くしろ。こうしている間にもわたしたちには救わねばならない者が居る」


「はい、すみません」


互いに笑みが零れて目を閉じると、額にあてられた人差し指が熱くなって何かを吸い取られたような感覚を覚えた。


「これでもうお前が人々の悲鳴を聞いて心を痛めることもない。輝夜…今までご苦労だったな」


「颯太(そうた)さん…天花(てんか)さん…今までお世話になりました。このご恩は…」


「別れの言葉など要らない。俺たちはまたきっと会えるだろうから」


「え?どういう意味でしょう?」


「さあ、もう兄たちの元へ行け。ずっと心配そうにこちらを見ているぞ」


「はい、そうします」


――颯太と天花に背を向けた瞬間、また閃光が迸った。

輝夜が振り返るともうそこに彼らの姿はなく、ただただ少しの寂しさと例え様のない感謝の意を込めて、空を見上げた。


「ありがとう…」


今まで私を育ててくれて、ありがとう。
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