宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「ああもうやだ信じられない!朔ってあんなにいい男だった!?」


「主さまは最初からすごくいい男ですよ姫様っ!ほら、手を出して下さい」


一緒に風呂場へ行き、着物を脱いで裸になったふたりはまず湯で身体を洗い、柚葉は凶姫の右手の爪まで入り込んだ血を丁寧に洗い流してやっていた。


「柚葉…あなたたちが戻って来た時少し聞こえたんだけれど…あなた、輝夜さんに告白したの?」


「えっ!?き…聞こえてたんですか…?そうなんです…私、鬼灯様が黄泉さんを殺しそうになった時どうにか止めようとして…」


「そうだったのね…。ねえ柚葉、輝夜さんとなんの約束をしているの?」


――凶姫にならそれを明かしても問題ないだろう。

いやむしろ逆に相談して、ぐいぐい迫って来る輝夜の腕をどう掻い潜るか一緒に考えてもらいたい。


「あの…どうしてそういう話になったのかは覚えてないんですけど…私の処女が欲しいって……」


凶姫、目が点。

点になった後、絶叫。


「ええっ!?どういうことよそれ!」


「しーっ!姫様声が大きいですっ!で、結局その約束を果たすことになって鬼灯様が今夜私の…その…処女を頂くって…」


「そ、それは間一髪だったわね。でもあなたはまだその気じゃないんでしょう?」


「そうなんです。だって鬼灯様は私のことなんて好きじゃないから…」


――それは違うでしょう?

あなたが黄泉と共に次元の穴へ消えた時…輝夜さんがどんな顔をしていたと思う?

あの人はあなたのことを好きよ、柚葉。


「そうなの?直接訊いてみたらいいんじゃない?ねえ柚葉、あなたそんなに可愛い顔をしていたのね。私はとんでもない娘と恋敵だったのね」


「姫様には勝てませんから。…特にそのおっきな胸がっ!」


がしっ。


「きゃ、きゃあーっ!なにするのよ!胸を掴むなんてせめて優しく触ってちょうだい!」


「じゃあ失礼して!」


「ふ、ふふっ、くすぐったいってば柚葉!」




……女ふたりが風呂場できゃっきゃっしているのを風呂場の外で耳を澄まして盗み聞きしようとしていた男、ふたり。


「楽しそうですねえ」


「いっそのこと乱入するか?恐らくその後俺たちの命はないけど」


「それはやめておきましょう。胸を掴む、かあ。お嬢さんは掴めるほど胸は大きくないんですが、私が大きくしてあげればいいか」


「輝夜、その話詳しく」


あちこちで恋の駆け引き、勃発中。
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