宵の朔に-主さまの気まぐれ-
風呂場の前でうろうろしていたのを雪男に見つかって怒られた兄弟は、朔の部屋に戻って用意してくれていた酒と盃を手にしてぽつり。


「俺たち…避けられているな?」


「ええ、避けられています。燃えますね?」


「ん、燃える。避けるのが逆効果だってあいつら分かってないな」


庭にはまだ黄泉…ベルンたちの躯があった。

埋葬する時一緒に弔いたいと朔が言ったため、彼らは雪男たちによって布に包まれ、丁寧に安置されていた。

朔は椿との戦闘によってぼろぼろだったため一旦着替えはしたものの、凶姫と柚葉の態度にふたりは笑いを堪えきれずにいた。


「輝夜、何を取り戻したのか俺には分からないけど、柚葉は関係あるのか?」


「ええ大ありですよ。ですから今夜約束を、と思ったのになあ。残念です。残念の極みです」


「その約束ってなんなんだ?」


「処女を頂くんです」


「…え?」


「約束していたんです。なんというか、自ら女を求めたのはこれがはじめてなんですよね。ですからお嬢さんは私にとって特別な存在なんだろうなあとぼんやり思っていたんですが、それは確信になりました」


長い前髪で美しい顔を隠していた輝夜は、髪を耳にかけて驚いている朔に笑いかけた。


「お嬢さんは私を好きだと言ってくれました。私も好きだと思いました。じゃあ後はもう頂くだけじゃないです?」


「ま、待て待て。過程がすっ飛んでるぞ」


「過程とは?」


「もちろん最終的には褥を共に、と思うのは当然だとしても、柚葉は男の経験がないんだろう?せめて柚葉がお前に抱かれたいと思うようになるまで待たないと」


輝夜は目を瞬かせて首を傾げた。


「そういう…ものなんですか?」


「そういうものだ。よし、今日はお前にとことん男女の機微を教えてやる」


「おいお前たち、風呂を覗きに行くなんて男のすることじゃないぞ。説教だ!」


雪男が朔たちを叱りに顔を出すと、兄弟の目がきらり。


「え?え?ちょ…な、なんだよ」


「お前も加われ。お前こそ男女の機微に詳しいはずだからな」


「そうですよ。さあさあ」


雪男、とばっちり。
< 397 / 551 >

この作品をシェア

pagetop