宵の朔に-主さまの気まぐれ-
三人共に蟒蛇なため、酔っ払うことはほとんどない。

雪男も加わってますます酒の量が半端なくなった中、雪男は干し肉を齧って朔の頭をぐりぐり撫でた。


「大体さ、主さまが男女の機微を語れると思うか?この鈍感が?」


「俺は鈍感じゃない。ちょっと気付きにくいだけだ」


「兄さん、それを鈍感と言うのでは?」


むっとした朔が唇を尖らせていると、雪男は強い酒を飲んでほろ酔い気分になって今度は輝夜の頭をぐりぐり撫でた。


「お前は女にだらしがないのは治さないとな。柚葉が好きなんだろ?」


「え?どうしてわかったんですか?」


「ふふふ、俺はお前たちより長く生きているのだ。だから分かるってわけ」


「ふむ。では私はいつまで我慢をすればいいと思いますか?」


「我慢って…何が?」


男三人額を突き合わせるようにして輝夜と柚葉が交わした約束の内容を聞いた雪男は、笑い上戸のように肩を揺らしながら口を両手で覆って堪えていた。


「あーそれは難儀だなあ。あの娘は純情っぽいもんな」


「そうなんです。何かと理由をつけて先延ばしにされそうなんですが、私の忍耐力がいつまで持つか」


「男はぐっと我慢だ。堪えろ!」


「そういうお前は朧と祝言を挙げる前に我慢できずに抱いたんじゃなかったか?」


「その節はすいませんでした!つまりさ、柚葉の方から‟抱いてほしい”って言わせればいいんだろ?お前みたくいい男だったら傍に居るだけでそう思わせることは可能だと思うけどな」


――確かに今までの経験から言わせれば、自分の方から何をするでもなく‟抱いてほしい”と言われたような気がする。

色香は朔や雪男に匹敵することを本人は気付いておらず、長い髪を揺らして首を捻った。


「結構長い時間をもう共にしていると思うのですが」


「押して駄目なら引いてみろ、ということか。ちなみに俺もそうしてみる。逃げ惑う芙蓉が可愛くてちょっと面白いんだけど」


「いえいえ可愛さから言うとお嬢さんの方が」


「いやいや、俺の嫁が一番可愛い」


いつの間にか自慢話に発展してさらに笑い声が上がった中、雪男は思い出したようにぽんと手を叩いた。


「そういや明日から主さまは百鬼夜行再開だぜ。今日までは先代が出張るってさ。でも早めに戻って来るから皆で宴をしようって言ってた」


「ん、分かった」


「ちょっとひとつお願いがあるんですけど、いいですか?」


輝夜に袖を引かれて今度は雪男が首を捻った。


「どうした?」


輝夜、にっこり。
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