宵の朔に-主さまの気まぐれ-
髪が短くなった輝夜は、髪が長かった頃よりも男らしく、色香が増したように見えた。

とはいっても襟足は少し長いし、前髪も以前よりは長くはないが――もう顔を隠すこともなく耳にかけていて、柚葉は心臓が口から飛び出るのではないかと思うほどに身体中が鼓動を立てていた。


「鬼灯様…髪が…!」


「ああこれですか。私が髪を伸ばしていたのは願掛けもあったので、その願いも叶いましたし伸ばす必要もないかと思って」


「願いって?」


「旅をやめて兄さんの傍に居れたらいいなあっていう感じですね。どうですか、似合いますか?」


…似合うどころか!

相変わらずの儚さは健在だが、こんな男に処女を求められているのかと思うと恥ずかしくなって、凶姫の背中に隠れて何度も深呼吸をして自身を落ち着かせようと心掛けたが――無理だった。


「輝夜さん、とても似合うわ。自分で切ったの?」


「いえ、雪男にやってもらいました。もう少し短い方がいいのかな」


「ううん、それでいいと思うわよ」


「芙蓉、ちょっとこっちに来て」


朔に声をかけられて思わず直立不動になった凶姫は、あからさまに動揺してしまったことで朔の笑みが増したことに歯噛みしながらなんとか虚勢を張って腰に手をあててふんぞり返った。


「何よ」


「いや、その目をまだよく見てなかったからよく見せてほしいなと思って」


「そ、そんなことよりご飯の前にお風呂に入ってきたら?傷口を清潔にしないと…」


「お前が手伝ってくれるなら入る」


「!じ、自分でしなさいよね!」


――しゅんとなった朔にきゅんとした凶姫は、輝夜ほどではないが儚さも併せ持つ男が肩を落としているのを見て慌てて朔に手を伸ばした。


「ちょ…ちょっとでいいなら手伝うわよ」


「ん。じゃあ輝夜、俺は少し離席する」


「はい、ごゆっくり」


目配せ。

肉食獣の目がきらりと光ったが、動揺でいっぱいの凶姫と柚葉はそれに気付かず――絡め取られる。
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