宵の朔に-主さまの気まぐれ-
さあどうぞ、と言われても…

目が真ん丸になっている柚葉の手をぐいっと引っ張った輝夜は、胡坐をかいた膝の上に柚葉をちょこんと乗せた。

また柚葉が小さいため腕にすっぽり収まり、柚葉の頭に顎を乗せてひとつ息をついた輝夜は、背中からぎゅうっと抱きしめてさらにさらにがちがちにさせた。


「座り心地はいかがですか?」


「あ、あの…よく分かりません…」


「あなたは小さいから収まりがいいですね。疲れているんでしょう?身体を預けて下さい」


――輝夜から花のような良い香りがした気がしてすんと鼻を鳴らした柚葉は、その香りがとても好きで気に入って言われた通り身体を預けた。


「鬼灯様、良い香りがします。何かつけてるんですか?」


「香ですか?何もつけてないですけど…お嬢さんからも良い香りがしますね。特にこの辺りから」


柚葉のうなじから首筋にかけて顔を寄せてくんと鼻を鳴らすと、柚葉はびくっと身体を揺らして顔を真っ赤にした。


「や、やめて下さい…」


「本当にやめてほしいならもっとはっきり拒絶して下さい。でないとやめませんよ」


「そんな…」


好きな男に触れられていやなはずがない。

だが柚葉はもうすでに輝夜に告白している身であり、つまり返事待ちであり…

輝夜が取り戻したものを知っているわけで、自分がどう思われているかをまだはっきり訊いていなかった。


「鬼灯様…っ」


「しー。少し黙って」


首筋に顔を埋める輝夜の唇やさらさらの髪が肌に触れて身をよじると、ぱちっと目が合った。

穏やかな目に吸い込まれそうになって息を呑んでいると――


唇が重なった。


それはとても優しいもので、そうされたいと思っていた柚葉が身体の力を抜くと、受け入れられたと感じた輝夜は舌を絡めて濃厚に柚葉を求めた。


間違いない。

私が求めていた人は、この人だ。


互いにそう思って、唇を貪り合った。
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