宵の朔に-主さまの気まぐれ-
その頃十六夜たちの暮らす家に着いた輝夜は、相変わらずにこにこしている息吹と、無表情の十六夜の前で何とも言えない居心地悪さを感じていた。


「輝ちゃん、どうしたの?何か話があるんでしょ?黙ってないでちゃんと話して」


「ええと…母様、実は以前約束した件でお話が」


「約束?」


きょとんとする息吹とは対照的に、輝夜はその反応を見て座ったままずいっと前進して首を傾げた。


「あれですよ。祝言を挙げるまでお嬢さんには手を出さないようにと…」


「え?そんな話したっけ?朔ちゃんみたいに先に赤ちゃんができちゃうのは駄目だよって話だったと思うけど…。…え?輝ちゃんまさか!」


「いえいえ違います、その手前のお話ですよ。ええとつまり私の勘違いだったのかな…。父様、母様…お嬢さんを妻に迎えたいので了承を頂きたく参上いたしました」


柚葉は三つ指をついて頭を下げたまま顔を上げられないでいた。

ここでもし否定されてしまったらと考えると、怖くて息吹たちを見れないでいた。


――だが十六夜と息吹は一度顔を見合わせて大きくこくんと頷くと、ぱあっと顔を輝かせた。


「柚葉ちゃん、ようこそ我が家へ!輝ちゃんのお嫁さんになってくれてありがとうっ」


「え…あ、あの…私でもいいんでしょうか…」


「輝夜ちゃんが選んだお嫁さんなんだし、柚葉ちゃんも輝ちゃんのお嫁さんになりたいって思ってくれるのなら反対なんかしないよ?ふたりが夫婦になってくれたらいいなって十六夜さんと話してたの。ねっ」


「…ああ」


元々言葉少ない十六夜だが、幼い頃から特異な力を持つ輝夜を気にかけて心配し続けていたのに戻って来てくれてしかも嫁まで迎えるとあっては――笑顔にならざるを得ず、息吹たちの目を丸くさせた。


「ち…父様?」


「よくやった。で、祝言はいつにするんだ?」


「実はですね…」


まだ状況が把握できていない柚葉の肩を抱きながら、兄弟で祝言を挙げる提案を話し始めた。

ふたりの目がみるみる丸くなって、輝夜もまた笑みを堪えきれず、嬉しさに包まれながら柚葉を見つめた。
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