宵の朔に-主さまの気まぐれ-
まずは身内と極々近しい者たちに、輝夜が柚葉を娶ることと、一緒に祝言を挙げる話をした。

ほぼすべての者たちがその報を喜び、焔も不承不承ながらもそれについてはもう反対してこなかった。

祝言を挙げる準備も始まり、一番忙しい者は何故か雪男で、朔や輝夜たちはほぼ口出しすることもなく、雪男と山姫がてきぱきと準備を進めるのを眺めていた。


「朔、手伝わなくていいの?」


「うん、準備は全て雪男たちがやる。俺だけじゃなくて、弟妹たちの祝言は全部ああして雪男たちが準備を進めてきたんだ。それが楽しいっていうから好きにさせようと思って」


言わば雪男によっても我が子同様らしく、しかも長男の氷輪がまだ嫁を取らないため余計に朔たちの準備に身が入って生き生きしていた。


「それより芙蓉、腹は痛くはないか?何か不安に思っていることは?」


「ずっと不安よ。この子を無事に生むまでずっと不安だと思うわ。もしあなたが百鬼夜行に出ている間に何かが起こったらと思うと怖くて…」


その話を聞いていた輝夜は、鬼灯を体内に宿していた時は自由に場所を移動することができたため、胸に手をあてて小さく微笑んだ。


「私にまだ以前の力があったならば、楽にここに戻れるのですが」


――そうやって胸に手をあてたのは久々で、もうあの温かさはなくなったはずなのに、何故か温かみを感じて目を見張った。


「輝夜?」


「え…そんなはずは…」


朔が腰を浮かして口元に手をあてて固まっている輝夜の肩に手を置くと、輝夜はゆっくりとした動作でそれを口から取り出した。


「鬼灯…」


「何故鬼灯が?それは実が弾けて無くなったんじゃ…」


「私にも分かりませんが…色も熟していますし、あの時確かに消えた感じがしたのに…」


あの碧い鳥は、最後に‟また会う時が来る”と言った。


「これも贈り物なのかな」


幼い頃から共に過ごしてきた同志たちからの贈り物を見つめて微笑むと、逆に朔は不安そうな声を上げた。


「それは俺にも使えるのか?」


「多分大丈夫だと思いますよ。そうだ、今から試してみましょう、そうしよう」


朔の手をきゅっと握ってにっこりしたが、朔は未知の体験を前に冷や汗をかいていた。
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