宵の朔に-主さまの気まぐれ-
鬼灯の形をした提灯に鬼灯を入れるとぽうっと明るくなり、神秘的な光景に凶姫と柚葉は手を取り合いながら輝夜を見つめていた。


「だ、大丈夫なの?」


「私以外の者を渡らせるのははじめてですけど大丈夫でしょう」


「鬼灯様…それは何を根拠に自信満々なんですか?もし主さまに何かあったら…」


「大丈夫大丈夫。さあ兄さん、私の手を握って」


「ん…分かった」


やや不安ではあったが輝夜を信頼している朔が手を握ると輝夜は庭に降り立って提灯を翳すし、前方を見据えた。

するとぐにゃりと空間が歪んで‟渡り”が現れた時のような真っ黒い穴が開くと、その中に入って消えてしまった。


「姫様…すみません、鬼灯様が強引で…」


「まあ…あのふたりなら大丈夫よきっと。ねえ柚葉、お汁粉食べない?息吹さんが作り置きをしていってくれたから」


「食べましょう食べましょう!」


お汁粉を温めてついでに餅も入れてきゃっきゃっしながら食べていると、真っ黒な穴に消えてから十数分後、再び穴が現れてふたりがゆっくり現れた。


「朔!大丈夫だった?」


「ああ、大丈夫だった。どこに行ってたと思う?」


凶姫と柚葉が顔を見合わせて首を振ると、朔は机にかじりついて忙しなく筆を動かしている雪男の頬に隠し持っていた氷をぴとりとあてた。


「うぉっ!な、なんだよ」


「どこの氷か分かるか?」


にやにやしながらそう問われておもむろに氷を齧った雪男は、驚きの表情で朔と氷を交互に見た。


「これ、俺の故郷の味…」


「ああ、お前の母の氷麗に会って来たぞ。‟元気にしているから心配するな”と言伝を預かった。あと‟孫の顔を見せに来い”とも言っていたな」


――本当に一瞬であんなに離れた所まで行っていたらしく、輝夜は肩を竦めてにっこり。


「これであなたが産気づいてもすぐ駆けつけることができるのが分かりました。ああ私って万能」


自画自賛する輝夜の頭をぐりぐり撫でた朔は、本当にこの弟が戻って来てくれて良かったとしみじみ思いながら、お汁粉を食べる会に加わって団欒の時を過ごした。
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