宵の朔に-主さまの気まぐれ-
今まで短期間で精神的にも身体的にも過酷なことがあって休まる日々がなかったため、朔は皆が思う以上に凶姫のことを気にかけていた。
晴明からも心休まる日々をと念を押されていて、ふたりになった時にこうも言われていた。
‟難産になるのは必至だ”と――
初産で難産を経験すると母体が危うくなる可能性が非常に高いと言われて、血の気が引いた。
だからこそ凶姫の我が儘は全て叶えてやりたい――そう思うのも自然で、密かに百鬼夜行に出るのが億劫になっていた。
「行きたくないな」
「なに言ってるの、お勤めでしょう?あなたがそんなだと皆がついて来ないわよ」
「最初は俺が出て行くのを寂しがってたのに。もう慣れたのか?」
「だって寂しがったってあなたは行くじゃない。無駄なことはしない主義なの」
半分は強がり。
随分重たくなった凶姫を膝に乗せて本の朗読をしてやっていた朔は、ぱたんとそれを閉じて愚痴を零した。
「俺はお前に甘えてほしいんだ。最近ちょっと気を張りすぎじゃないか?もうちょっと気を緩め…」
「あ、甘えるですって!?そんなの…そんなの…どうやってやるのよ…」
気を張って生きてきたからどう甘えればいいのか分からない――
「すりすりしてきたり?抱き着いてきたり?とんでもない我が儘を言ってみたり?」
「こう…?」
横向きに座り直した凶姫が朔の背中に手を回してぎゅっと抱き着くと、それがとても嬉しかった朔はふわりと抱きしめ返して腹を撫でた。
「いい香りがするわ…。とても落ち着く香り」
「出産の時は必ず傍に居るし、絶対不安にはさせないから。絶対絶対…大丈夫だ」
――朔が自分以上に不安を抱いている…
そう感じ取った凶姫は、すりすりと頬ずりをして黒や赤に変化する鮮やかな目で朔を見つめた。
「分かってるわ…。あなたを信じてる。私も…この子も」
母は強し。
凶姫にはすでにその風格があり、朔は凶姫の頭を抱きしめて胸に埋めた。
晴明からも心休まる日々をと念を押されていて、ふたりになった時にこうも言われていた。
‟難産になるのは必至だ”と――
初産で難産を経験すると母体が危うくなる可能性が非常に高いと言われて、血の気が引いた。
だからこそ凶姫の我が儘は全て叶えてやりたい――そう思うのも自然で、密かに百鬼夜行に出るのが億劫になっていた。
「行きたくないな」
「なに言ってるの、お勤めでしょう?あなたがそんなだと皆がついて来ないわよ」
「最初は俺が出て行くのを寂しがってたのに。もう慣れたのか?」
「だって寂しがったってあなたは行くじゃない。無駄なことはしない主義なの」
半分は強がり。
随分重たくなった凶姫を膝に乗せて本の朗読をしてやっていた朔は、ぱたんとそれを閉じて愚痴を零した。
「俺はお前に甘えてほしいんだ。最近ちょっと気を張りすぎじゃないか?もうちょっと気を緩め…」
「あ、甘えるですって!?そんなの…そんなの…どうやってやるのよ…」
気を張って生きてきたからどう甘えればいいのか分からない――
「すりすりしてきたり?抱き着いてきたり?とんでもない我が儘を言ってみたり?」
「こう…?」
横向きに座り直した凶姫が朔の背中に手を回してぎゅっと抱き着くと、それがとても嬉しかった朔はふわりと抱きしめ返して腹を撫でた。
「いい香りがするわ…。とても落ち着く香り」
「出産の時は必ず傍に居るし、絶対不安にはさせないから。絶対絶対…大丈夫だ」
――朔が自分以上に不安を抱いている…
そう感じ取った凶姫は、すりすりと頬ずりをして黒や赤に変化する鮮やかな目で朔を見つめた。
「分かってるわ…。あなたを信じてる。私も…この子も」
母は強し。
凶姫にはすでにその風格があり、朔は凶姫の頭を抱きしめて胸に埋めた。