宵の朔に-主さまの気まぐれ-
冬が来ると広い屋敷はよく冷えて、凶姫は着られるだけ半纏や羽織りを着せられて身動きできずにふくれっ面になっていた。


「ちょっと朔…私、これじゃひとりで立てないわよ」


「俺が居るから大丈夫。寒くないか?あと何個か火鉢を用意しよう」


「いえ、もう十分よ。ねえ柚葉、あなたからもちょっと言ってあげて。この人想像以上に過保護だわ」


柚葉は柚葉で、凶姫の白無垢姿が見たくてそれを手縫いで作って着てもらいたくて奮起していて手元に集中。


「え?今なにか言いました?」


「もうっ!誰か朔を注意してくれる人…そうだわ、雪男さんが居たわね、どこに…」


「残念だけど雪男はこの部屋には入ってこないぞ。あいつは暑いの苦手だからな」


「苦手ってほどでもないけど自ら火の傍になんか近付くかよ」


障子を挟んで縁側で薄着で鼻歌を歌いながら酒を飲むという常軌を逸した行動を取っている雪男に一同がため息。

外は雪が積もり、数分縁側に居るだけで凍り付きそうなほど寒いのに、雪男はそれがとても快適で氷輪と着込みに着込んだ朧と三人で雪見酒と洒落込んでいた。


「明日お祖父様が検診に来るんだけど、何か気になることはない?」


「そうね、最近特にお腹が大きくなった気がするんだけど、破裂しないかどうか訊くのはどう?」


確かに凶姫の腹はみるみる膨らんで、今にも生まれるのではないかと思うほどだった。

柚葉の手伝いをしている輝夜を思わずじっと見つめた朔は、肩を竦められて未来を話すことを拒まれた。


「すみません、もう使命ではないとはいえ先の未来を話すことによって何かが変わってしまうのは避けないと」


「そうだな、俺が悪かった。…生まれるまで気が気じゃないな、父様は何度も何度もこんな経験をして頭がおかしくならなかったのかな」


「頭おかしいから息吹を酷使したんだろ」


雪男が笑いながら悪態をつくと、朧がぺしっと頭を叩いてにっこり。


「お師匠様は私に何人も生ませてますけど何か?」


「う…」


「ともかくお祖父様によく診てもらおう。芙蓉、頼むから安静にしていてくれ」


「大丈夫よ。大体あなたは心配しすぎだわ」


そう言われても気が楽になることはなく、難しい顔をしていて何度も凶姫に叱られた。
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