宵の朔に-主さまの気まぐれ-
薬を飲んだ後横になっていたが、晴明の言った通り副作用はやってきた。

眩暈が起こって横になってじっとしていても視界がぐるぐる動いて気持ち悪くなり、何度も吐き気を催して、その都度腹の中から子に蹴られてうめき声が漏れた。


「ああ…私…死んじゃわないわよね…?」


「そんなこと言わないで下さい。もうすぐ生まれてくるんですから気をしっかり」


すぐ傍には柚葉がしっかり待機していて、もうそろそろ完成しそうな真っ白な着物を優しげな手つきで撫でた。


「柚葉…それとてもきれいね。あなたが着るの?」


「いいえ、これは姫様のですよ。姫様の体形に合わせて作ってますからぴったりなはずです」


「あなたのは?」


「私のは別になんでもいいんです。ほ、鬼灯様のお嫁さんになれればそれで…」


本音を言えば凶姫も同じ思いで、ふたりでもじもじしていると、熱い茶を持って来た息吹は少しだけ障子を開けて外を見ると、肩を竦めてにこっと笑った。


「そういえば朔ちゃんたちってみんなお月様が見えてる頃に生まれたんだけど、今回はどうなのかな?お産の日がずれるとしたら、もしかしたらはじめてのことになるのかも」


――それはいやだと思った。

朔たちの一族は全員が月に関連する真名で、色々な名を考えていたのに――


「私…月が見えている頃に生みたい。息吹さん、今は月は出ているの?」


「うん、出てるよ。そろそろ満月になるんじゃないかな。姫ちゃんの願い通りにお月様が出てる時に生まれてくるといいね。最初の親孝行になっちゃうかもね」


息吹がそっと凶姫の大きな腹に手を添えると、ずくんと今までとは違う感触がした。


「…?」


「姫ちゃん?どうしたの?」


「いいえ、なんでもありません。皆が待っているんだから、早く会いたいわ」


朔は後ろ髪を引かれるようにして百鬼夜行に行った。

凶姫は副作用と戦いながらも笑顔を忘れず、腹の中の子に話しかけ続けた。
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