宵の朔に-主さまの気まぐれ-
いつも穏やかでいて冷静な朔が、出産を目前にしてそわそわしている様は――百鬼たちを和ませていた。
朔が赤子の頃から知っている百鬼が多いため、彼らにとってもまた朔の子は次代の当主であり、忠誠を誓うべき子。
誕生を今か今かと待っている思いも十分に理解できるからこそ、そわそわしていても不満はない。
「輝夜、そろそろ戻らないか?」
「え?夜明けまでまだかなりありますけど…そうですよね、戻りましょうか。今夜は襲撃の事前情報もありませんし見回りだけですからね」
凶姫が産気づいた時は輝夜が教えてくれる手筈になっているのだがまだその様子はなく、それでも凶姫の傍に居たくて急いで戻ると、凶姫は真っ青な顔で横になっていた。
「芙蓉…!?顔色が…どうした?」
「ああこれは…副作用なのよ。まだ一度しか飲んでいないのに眩暈がしちゃって大変」
「でもそれを日に三度飲まなきゃいけないんだろう?大丈夫なのか…?」
「私は大丈夫。ねえ朔、外の空気を吸いたいから連れて行って」
外はまだかなり寒く、羽織をきっちり着せてさらに掛布団をぐるぐる巻きにすると抱き上げて縁側に出た。
夜明けまでまだ時間があることもあり、飲み込まれそうなほどに濃い青空を見上げた凶姫は、澄んだ空気を大きく吸って吐き出すと、真っ白な息に微笑んだ。
「私、夜空が大丈夫になったのよ。‟渡り”が死んで、私を悩ませるものは何もなくなって…全部あなたのおかげ。赤ちゃんを授かったのも、あなたのおかげ」
「芙蓉…それは俺の言葉だ。まだ嫁を取る気もなかった俺が、出会ってすぐお前に惚れて…どうやって振り向いてもらおうか必死に考えて…ああ妊娠の既成事実を先に作ったのは狙ってたんだけど」
「ふふふ、お互い様ってことね。ねえ、難産になるのは私の腰が細いからであってあなたのせいじゃないのよ。だからこれからはもうちょっと太ってあなたを安心させなきゃ」
「ん、好きな食べ物があったら言って。何が何でも手に入れてくるから」
凍り付きそうなほどに寒い外の空気は澄み渡り、寒さも忘れてふたりで夜空に見入った。
朔が赤子の頃から知っている百鬼が多いため、彼らにとってもまた朔の子は次代の当主であり、忠誠を誓うべき子。
誕生を今か今かと待っている思いも十分に理解できるからこそ、そわそわしていても不満はない。
「輝夜、そろそろ戻らないか?」
「え?夜明けまでまだかなりありますけど…そうですよね、戻りましょうか。今夜は襲撃の事前情報もありませんし見回りだけですからね」
凶姫が産気づいた時は輝夜が教えてくれる手筈になっているのだがまだその様子はなく、それでも凶姫の傍に居たくて急いで戻ると、凶姫は真っ青な顔で横になっていた。
「芙蓉…!?顔色が…どうした?」
「ああこれは…副作用なのよ。まだ一度しか飲んでいないのに眩暈がしちゃって大変」
「でもそれを日に三度飲まなきゃいけないんだろう?大丈夫なのか…?」
「私は大丈夫。ねえ朔、外の空気を吸いたいから連れて行って」
外はまだかなり寒く、羽織をきっちり着せてさらに掛布団をぐるぐる巻きにすると抱き上げて縁側に出た。
夜明けまでまだ時間があることもあり、飲み込まれそうなほどに濃い青空を見上げた凶姫は、澄んだ空気を大きく吸って吐き出すと、真っ白な息に微笑んだ。
「私、夜空が大丈夫になったのよ。‟渡り”が死んで、私を悩ませるものは何もなくなって…全部あなたのおかげ。赤ちゃんを授かったのも、あなたのおかげ」
「芙蓉…それは俺の言葉だ。まだ嫁を取る気もなかった俺が、出会ってすぐお前に惚れて…どうやって振り向いてもらおうか必死に考えて…ああ妊娠の既成事実を先に作ったのは狙ってたんだけど」
「ふふふ、お互い様ってことね。ねえ、難産になるのは私の腰が細いからであってあなたのせいじゃないのよ。だからこれからはもうちょっと太ってあなたを安心させなきゃ」
「ん、好きな食べ物があったら言って。何が何でも手に入れてくるから」
凍り付きそうなほどに寒い外の空気は澄み渡り、寒さも忘れてふたりで夜空に見入った。