宵の朔に-主さまの気まぐれ-
小さな痛みだったものが激痛に変わり、額には脂汗が浮かんで歯を食いしばった。


「痛い…苦しいわ…!どうしたらいいの…!?」


「姫ちゃん、その痛みは間隔によって痛みが引いたり痛くなったりするから、楽になる呼吸の仕方を教えてあげる。よく見てね」


駆けつけた息吹と朧が半恐慌状態の凶姫の枕元で励ましながら話しかけ続けている間、朔はどうすることもできずに縁側を行ったり来たりしていた。

それは輝夜も同じで、同じ部屋に居るもののもぞもぞ身体を動かしては腕を組んでみたり、凶姫のうめき声を聞いて共鳴するように表情を歪めていた。


「これは…つらいですね」


「出産の時男は何もできないと聞いてはいたけど…本当だな。生まれるまで俺はうろうろすることしかできないのか?」


「朔ちゃんも落ち着いて。陣痛が始まってから数時間は生まれないから、その間に色々準備しなきゃ。お祖父様はそろそろ来るんだよね?」


「はい、すぐ連絡したので…。芙蓉大丈夫か?腹を摩ってやろうか」


言葉にならず頷く芙蓉の大きな腹を摩ってやっていると、呼吸が乱れて苦しそうなその様に――思わず息吹を見つめた。


「母様…大丈夫ですよね?」


「難産にはなると思うけど、お祖父様も来るんだし、姫ちゃんも赤ちゃんもちゃんと元気でいれるように頑張ろうね」


「きゃ、ぁ…っ!」


再び猛烈な痛みが襲ってきて悲鳴を上げた凶姫が鋭い爪を立てて腕を握ってきた。

朔は腕から出血しながらも凶姫から目を離さず、真剣な表情で見つめた。


「俺たちの子がもうすぐ生まれてくる。芙蓉、一緒に頑張ろう。絶対離れないから」


また悲鳴が上がった。

それでも絶対にその手を離さないと決めた朔は、その痛みが少しでも自分にうつればいいのにと願いながら、励まし続けた。
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