宵の朔に-主さまの気まぐれ-
腹の中で育ちすぎていると聞いていたため、大きな子を想像していた朔は、生まれてきた我が子がとても小さく見えていたのだが――それは晴明や息吹も同じだったようで、首を捻った。


「父様…小さいよね?」


「ああ小さいね。私の予想では一回り程大きいはずだったのだが」


「小さいと…どうなんですか?」


ふたりの会話を聞いて不安を覚えた朔が身を乗り出すと、晴明は腕を組んで天井を見上げた。


「そうだねえ…成長が遅くなったり、本来発達すべきものが発達しなかったりすることもあるが、急に大きくなる子も居るから楽観視してもいいと思う程度のものだよ。女の子だしね」


凶姫の腕に抱かれてすでに指を吸っている赤子はとても可愛らしくて飽きもせずに見つめていると、そこに輝夜が駆け付けて息を切らしながら歩み寄ってきた。


「ああ生まれたんですね、良かった。ところで縁側にこれが」


輝夜の手には碧い羽と朱い羽が握られていて、朔と凶姫は顔を見合わせて笑うと、また我が子に見入った。


「子守歌というか、歌を唄ってくれたんだ。それまでとても難産で苦しんでいたんだけど、歌を聴いた途端するっと生まれてきた」


「そうですか、しかし私に会いもせずあのふたりは全く」


ぶつぶつ文句を言いながら柚葉の隣に座ると、雪男が湯を張った小さめの盥を部屋に持ってきて、にこにこしながらそれを傍に置いた。


「女の子か!へえ、次の主君は女…」


「なんだにやにやして。やらしい目で見たらどうなるか分かってるんだろうな?」


凄む朔に降参するように小さく手を挙げて笑った雪男は、盥と赤子を交互に指した。


「これ産湯な。凶姫はへとへとだろうから主さまが入れてやれよ」


「ん」


「朔、お願いね」


緊張しながら腕に我が子を抱いた朔は、産着を脱がせて慎重にぬるめの湯を身体にかけてやった。

すると嬉しそうに足をばたばたさせてにこにこした赤子に、一同ほんわか。


「これは…この子は美人になるでしょうね」


「当たり前だ。俺と芙蓉の子だぞ」


「言い寄って来る男をちぎっては投げ、ちぎっては投げ!主さまの苦難は続く。次号待て!」


雪男の瓦版風な台詞にまた皆が笑い声を上げる中、息吹は晴明の肩を叩いて立ち上がった。


「じゃあ次はお乳だね。私たちは外すから、終わったら呼んでね」


その言葉が分かったように、また赤子がにこっと笑った。
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