宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔が部屋に戻ると、凶姫の隣で寝ていた暁がぱちっと目を開けた。

そこではじめて気が付いた。


「暁…お前のその目は母親似だな」


目元は確かに皆が言うように自分に似ているとは思っていたのだが――暁の目の色は凶姫と同じく赤や黒に変化していて、頬を緩めた朔は、長い人差し指を伸ばして小さな小さな紅葉のような手にちょんと触れた。


「女でその目で当主、か…。これは雪男が言ったように言い寄って来る男を俺がちぎっては投げ、ちぎっては投げ…をやらないといけない。だけどお前に弟か妹ができればそんな不安も緩和されるかな」


「あぶ…」


人差し指をきゅっと握られてきゅんとしていると、寝ていたはずの凶姫が吹き出してころんと寝がえりを打った。


「何を言い聞かせてるのよ。それに目の色に今気付いたの?私はこの子を見た瞬間気が付いたっていうのに」


「ごめん、浮かれてて気が付かなかった。身体はつらくない?」


「つらいといえばまだつらいわね。だって何ヶ月もお腹に抱えてたんだもの、すぐ良くならないわ。ねえ、祝言は体調が戻るまで待ってくれるんでしょう?」


「うん、まだ幽玄町に住む者たちにも発表はしてないから安心して。でも柚葉の店は近々開店するけど」


――柚葉は輝夜との祝言が決まった後も店を続けるつもりらしく、怒涛の如く品数を増やしていた。

同時に祝言を挙げることをとても楽しみにしている凶姫は、暁が朔をじいっと見ていてやわらかい頬をむにっと突いた。


「私はあなたに舞いを教えるわ。あなたの父様はあなたに家業のことを教えるけれど、継ぎたくないなら継がなくていいのよ。あなたが決めていいの」


「あー」


「というわけで、早急にふたり目を作ろう。でもまた難産になるのかな」


「一度お産を経験したからもう大丈夫よ、それにまた難産だとしてもくじけないわ。一人っ子なのは寂しいからせめてもうひとり弟か妹を作ってあげましょうね」


親子三人川の字になって暁を代わる代わる撫でて、愛しんだ。

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