宵の朔に-主さまの気まぐれ-
朔と輝夜が祝言を挙げる知らせは翌日幽玄町内の全域に貼り出されて大きな盛り上がりを見せた。

それもこれも、幽玄町内に住む人々は普通の人であり、普通に数十年の寿命で天寿を全うする。

その数十年の生のうちに、幽玄町を統べる者が祝言を挙げたり、その姿を拝顔することはほとんどないといっても過言ではなく、その日だけはまっすぐ顔を上げて彼らを見ることができるのだ。

しかも子がすでに生まれているとあって、盛り上がりは最高潮に達していた。


「主さまー、ちょっと表がすげえことになってんだけど」


「何が」


「幽玄町の連中だよ。祝言の祝いにって食べ物とか反物とかとにかく沢山なんだ。どうすんだあれ」


雪男が途方に暮れている中、朧がてきぱきと玄関に積み上げられた祝いの品を使っていない客間に運びながらぴしゃり。


「お師匠様、遊んでないで手伝って下さい!これから忙しくなるっていうのにっ」


「あの朧さん、私も何か手伝い…」


「いいえ、姫ちゃんはゆっくりしてて下さい。暁ちゃん、もうすぐみんなにお祝いしてもらえるからねっ」


朧が指を暁の口に近付けるとぱくっと口に入れてちゅうちゅう。

悶え死にそうなほどきゅんとした朧は、力任せに雪男の背中をばしっと叩いて慌ただしく品を運び始めた。


「しかし祝言の知らせの後にお嬢さんの店が開店することになるわけで、それって…」


「ああ、一瞬で品が売り切れる可能性があるな。そもそも柚葉が作ったものは評判が良かった。柚葉、用意しているものが売り切れたらどうするんだ?」


祝言を挙げる当の本人たちは蚊帳の外状態で居間に集まって談笑していたのだが、柚葉は眉を下げてさらに困り顔になった。


「それは想定してなかったので…売り切れたらお店を閉めてまた作らないと…。何せ全部手作りなので…」


「付加価値がついていいんじゃないでしょうか。開店の日は私も店に立ちますからね」


「俺も行きたい」


「主さまは駄目ですっ!大騒ぎになりますから!」


またもや店に顔を出すのを止められてふくれっ面になった朔は、朝のあたたかな日差しが差し込む縁側ですやすや眠っている暁に目を遣った。


「いよいよ開店か。輝夜、もみくちゃにならないようちゃんと守るんだぞ」


「はいもちろん」


相変わらずの過保護っぷりに皆がくすくす。
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