宵の朔に-主さまの気まぐれ-
鬼族は基本的に酒に滅法強く、酔いつぶれることはほとんどない。

つい話に花が咲くと酒もいつも以上に進んでしまい、授乳中の凶姫と妊娠中の柚葉は途中から茶を飲みながらもその場から離れ難く、朔たちの妹たちがしてくれる昔話を聞いていた。


「暁ちゃんはこんなに周りがうるさいのにすやすや寝てるね。大物!」


息吹が驚きながら赤子用の小さな床で熟睡している暁の髪を撫でた。

すでに肝が据わっていてほとんどぐずることがなく、夜泣きは全くといっていいほどしない。

朔も昔そうだったらしく、親子は似るものなのだなと感心しながら凶姫は愛おしそうに暁の小さな手を握った。


「可愛いっていうよりもきれいな娘になるんでしょうね。朔兄様はすでにやきもきしてるんじゃない?」


「なるべく長く当主で居続けたいって言ってるわ。つまり暁を当主にさせたくないってことかしら」


「女の子なのもあると思うけど、あんまり可愛くてきれいな娘だとその分ねえ…男たちが放っておかないから」


「それなんだけど、良い案があるんだ」


急に話に割って入って来たのは朔で、皆が朔が座る場所を作ると凶姫の隣に座ってにっこり。


「まだ教えないけど、良い案だと思う。ところでお前たち、今日は来てくれてありがとう。おかげで楽しい式になった」


「いいえこちらこそ。朔兄様がどんな人を連れてくるのかと思っていたけれど、やっぱり美人だったわね!その目、よく見せてほしいなあ…」


息吹や十六夜似の超絶目見麗しい面々ににじり寄られて乾いた笑みを浮かべていると、朔が凶姫の肩を抱いてひそり声を潜めた。


「お前たち忘れてないか?祝言の後は何をするべきだと思う?」


「やだ朔兄様ったら!そうよね、赤ちゃんが居るとはいえやることやらないとね!」


明け透けにものを言う妹たちの頭をつぎつぎと軽く叩いた朔は、寝ている暁を抱っこして輝夜に声をかけた。


「お前もそろそろふたりの時間を持っていいぞ」


「はい、もうちょっと皆と話してからそうします」


――初夜。

もう初夜もへったくれもないのだが、皆のにやにやする顔を見ていると急に緊張が高まってきて、朔の袖を握ってどきどきしながら廊下を歩いた。
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