宵の朔に-主さまの気まぐれ-
自室に戻った朔は、ものすごく表情が強張っている凶姫を座らせながら吹き出しそうになるのを堪えていた。

遊郭に居たものの男に抱かれたらその男は死んでしまうという呪いを‟渡り”にかけられた。

よって男性経験もそんなに多くはないはずなのだが、本人は何故か胸を張って‟沢山ある”と言い張る。

気丈に振舞う姿もまた可愛いと思っている朔は、自室に無断で入ることを許している雪男によって敷かれている床を見てそれを指した。


「もう寝る?」


「えっ!?い、いいえ…この騒がしさで寝れるわけないじゃない」


「そういうことなら」


すう、と目を閉じて念じると――全ての音が遮断されて静寂が部屋に満ちた。

凶姫の隣に腰かけた朔は、そっときれいなうなじに触れてさらに凶姫を動揺させた。


「もうずっと触ってない気がするんだけど」


「気のせいじゃない?きっと…そうよ…」


そのまま首元から打ち掛けをぱさりと落とすとさらに動揺。

暗闇の中でも顔は真っ赤になっているのが分かり、朔は凶姫の頬をむにっと引っ張って枕元に置かれてある真っ白な浴衣を引き寄せた。


「着替えれば?いろいろ着こんでるから重たいでしょ」


「え?ええ…じゃあ後ろ向いててちょうだい」


「ははっ!お前は全く…」


朔が呆れながら背中を向けると、衣擦れの音がして自分も着替えようと紋付き袴を脱いだ時――背中からぎゅうっと抱き着かれて思わず硬直した。


「芙蓉?」


「暁も寝てるし、今夜は…その…初夜でしょう?何もしない気?」


「いや…何もしないっていうかお前が拒んでるように見えたから」


「焦らしてるだけよ。あなた時々天然さんになるわね」


ゆっくり凶姫の方に身体を向けた朔は、何も纏っていない姿を見て牙が疼いて口元を片手で覆った。


「暁を生む前より痩せてる気がするんだけど」


「失礼ね、ちゃんと食べてるわよ。私の身体…おかしくない?気に入らないところは?」


「何もない。むしろ…とてもきれいだ。…触ってもいい?」


「ええ。朔…私を末永くよろしくね」


「うん、俺のことも末永くよろしく」


ゆっくりと唇を重ね合った。

ゆっくりと床に凶姫を押し倒した。

ゆっくりと舌を絡めて、その身体に触れて愛した。
< 543 / 551 >

この作品をシェア

pagetop