宵の朔に-主さまの気まぐれ-
夫婦の契りを交わした後、一緒にうつ伏せになって頬杖をつきながら読みかけの本をふたりで覗き込んでいた。

目が見えない時は朔に朗読してもらって楽しんでいたが、目が見えるようになってからも見えなかった時と同じように低い声で本を読んでもらっていると、とても心が落ち着いて安らいだ。


「読むのは別にいいけど恋物語って…」


「あなたに本を選ばせると活劇ものばかりじゃない。私は甘くてとろけるような恋物語を読んでもらいたいのよ」


「甘くてとろけるような旦那が隣に居ると思うんだけど」


はたと視線が合うと、凶姫はぱっと目を逸らして朔にこつんと頭を小突かれた。


「こっち向いて」


「…もうばれてると思うけれど、私…あなたをじっくり見ることができないのよ。少しずつ慣れるから我慢してちょうだい」


「俺の何がいけないんだ。傷つくじゃないか」


「もう全てよ、全て!身体つきはいやらしいし、顔は同じ生き物と思えないほどきれいだし…指だってこんなに長くて見惚れちゃうくらいきれいだし…。だからあなたをじっと見ていられないの」


「ふうん、じゃあ俺はお前と目が合うまでずっと見てる。妖は強さこそ全て。強い者は容姿に優れていると言われているから、お前もたいがい強いんだろうな。‟渡り”にしたように俺の腹を貫かれないようにお前の前では縮こまっていないといけないな」


「あれは…火事場の馬鹿力よ。でもそうね、私もやればできるんだって分かったから、あなたが危機に陥ったら助けてあげなくもないわよ」


朔が笑いながらぱたんと本を閉じて仰向けになると、凶姫は朔の胸に乗るようにしてしなだれかかって指で頬をなぞった。


「私はあなたの良き理解者であれるように頑張るわ。そりゃ雪男さんには敵わないけれど、あなたの妻として支えるからもっとあなたの家のことを教えてね」


「じゃあ明日は蔵を案内する。初代の頃からの書物も沢山あるから」


「本当に!?それって宝の山ね!」


お互い、本の虫。

なんてすばらしい伴侶に巡り合えたんだろう、と互いに思いながら、目を覚ました暁を抱き寄せて親子団らんの時を過ごした。
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