宵の朔に-主さまの気まぐれ-
翌朝、大量の朝餉を用意した息吹は、居間に勢ぞろいした我が子たちの前で輝かん笑顔を見せた。


「みんなに発表があります。私と十六夜さんは、輝ちゃんと柚葉ちゃんの赤ちゃんが生まれたら、旅に出まーす!」


…沈黙。


何せ皆が皆、母至上主義。


祝ってもらえると思っていた息吹は振り上げた腕を驚いた表情で下ろしながら、首を傾げた。


「どうしたの?喜んでもらえないの?」


完全に沈黙してしまった我が子たちを前に息吹が戸惑っていると、十六夜が静かに口を開いた。


「これは我が家の伝統でもある。むしろ長く留まりすぎた。お前たちは所帯を持って子を成し、我が家の繁栄を手伝ってくれた。俺と息吹はもう役目を終えたということだ」


「…でも…」



天満がようやくかすれた声で反論しようとすると、息吹は唯一妻子を亡くして生涯独り身宣言をしている天満の頭を撫でて隣に座った。


「お祖父様やひいお祖父様たちもみんなそうしてるんだよ。前当主は現当主に口出しをしてはならない…近くに居たらどうしても口出ししちゃうからね、私と十六夜さんは子供が増える度に旅に出ようって誓い合ってきたから」


それでも沈黙は続き、凶姫や柚葉がどうしたものかともじもじしていると――輝夜が清々しく両腕を広げてにっこり。


「私が居るじゃないですか」


「え?輝兄、それはどういう意味…」


「私は母様方の血を色濃く受け継いでいると言われました。お前たちにはない特異な力もあります。どこにでも一瞬で行ける力…それを使えば母様たちが例えどこに居ようとも一瞬で会いに行けるじゃないですか」


おお、と歓声が沸き、今生の別れになるのではと暗い表情だった皆がようやく笑みを見せてほっとした。


「そうだな、お前が居ればいつだって会える。父様、そうですよね?」


「…そうだが頻繁に会いに来るなよ」


「父様は母様を独占したいから私たちにはしょっちゅう来てほしくないのよ」


ようやく軽口を叩けるようにもなり、笑いが起こった。

息吹もほっとして両手を合わせると、皆もそれに倣った。


「はい!じゃあ、いただきます!」


「いただきます!」


賑やかな朝餉。

春を目前にあたたたかな日差しが降り注ぎ、あたたかな空気に包まれた。
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