宵の朔に-主さまの気まぐれ-
「“渡り”か…十六夜が知ったら目を吊り上げそうだねえ」
「母様から聞くと思いますからここに来るのも時間の問題でしょう。というわけでお祖父様、お力添えをお願いすることもあると思います」
「それはいいとも、私に何かできるならば喜んで」
凶姫と柚葉の傷を診て朔に薬を手渡した晴明は、全く面立ちの違うふたりの女を思い返して朔にひそりと訊ねた。
「で?どちらなのかな?」
「どちらとは?」
質問の意味を分かっていてはぐらかす朔に笑みを漏らした晴明は、手を振って牛車に乗り込んだ。
「いいや、老婆心から出た問いだ、気にしなくていいよ。また明日様子を見に来るから無理をさせぬよう」
頷いた朔は晴明を見送った後居間に戻り、縁側でひとりぽつんと座っていた凶姫の隣に座った。
…すべてを恨んでいると打ち明けた凶姫の横顔は美しく、じっと見ていると――また怒られた。
「何よ。じっと見てないで何か言いなさいよ」
「いや、きれいな顔をしてるなと」
「!褒めたって何もあげるものなんてないわよ」
「そうか?沢山あると思うけど」
「例えば?」
「例えば…」
顔を近付けた朔に凶姫が身じろぎして距離を取ろうとした時――背後から咳払いが聞こえて振り返ると、雪男が居心地悪そうな顔で立っていた。
「あー…邪魔したくなかったんだけどこっちも急用で」
「どうした」
「例の金を届けに」
「ああそうだったな、気を付けて行ってくれ」
「了解」
庭には雪男を待っていた猫又が居て姿を見て駆けてくると、何故か朧が猫又に乗って凶姫が首を傾げた。
「どこかに出かけるの?」
「お前の居た遊郭にちょっと用があって代わりに雪男に行ってもらうんだ」
また凶姫の首が傾く。
彼女はまだ何の事情も知らずにいた。
「母様から聞くと思いますからここに来るのも時間の問題でしょう。というわけでお祖父様、お力添えをお願いすることもあると思います」
「それはいいとも、私に何かできるならば喜んで」
凶姫と柚葉の傷を診て朔に薬を手渡した晴明は、全く面立ちの違うふたりの女を思い返して朔にひそりと訊ねた。
「で?どちらなのかな?」
「どちらとは?」
質問の意味を分かっていてはぐらかす朔に笑みを漏らした晴明は、手を振って牛車に乗り込んだ。
「いいや、老婆心から出た問いだ、気にしなくていいよ。また明日様子を見に来るから無理をさせぬよう」
頷いた朔は晴明を見送った後居間に戻り、縁側でひとりぽつんと座っていた凶姫の隣に座った。
…すべてを恨んでいると打ち明けた凶姫の横顔は美しく、じっと見ていると――また怒られた。
「何よ。じっと見てないで何か言いなさいよ」
「いや、きれいな顔をしてるなと」
「!褒めたって何もあげるものなんてないわよ」
「そうか?沢山あると思うけど」
「例えば?」
「例えば…」
顔を近付けた朔に凶姫が身じろぎして距離を取ろうとした時――背後から咳払いが聞こえて振り返ると、雪男が居心地悪そうな顔で立っていた。
「あー…邪魔したくなかったんだけどこっちも急用で」
「どうした」
「例の金を届けに」
「ああそうだったな、気を付けて行ってくれ」
「了解」
庭には雪男を待っていた猫又が居て姿を見て駆けてくると、何故か朧が猫又に乗って凶姫が首を傾げた。
「どこかに出かけるの?」
「お前の居た遊郭にちょっと用があって代わりに雪男に行ってもらうんだ」
また凶姫の首が傾く。
彼女はまだ何の事情も知らずにいた。