リボンと王子様
それからも。

二人で他愛ないことを話した。

屋上庭園で出会ったあの日のこと。



これまでのこと。

何が好きで、何が嫌いか。

そして……仕事のことも。


「……今は橘株式会社に勤務しているけど……再来年までには戻ろうと思っている」


独り言のように話す千歳さんを私は黙って見つめた。


「……橘で俺の素性を知っている上司が本当にいい人で、今後のためにってドイツにある橘の事業部に二年間行かせてくれたんだ。
今回の帰国で母さんは会社に入社してほしかったみたいだけど、俺はもう少し橘で経験を積みたいんだ」


抑揚のない声で話す千歳さん。


「たとえ会社が変わっても……傍にいてほしい」


不安を瞳に滲ませながら私を見つめる千歳さんに小さく頷いた。

……それはきっと叶わないだろうと、心のどこかでわかっていながらも、今はそれを信じたかった。
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