リボンと王子様
毎朝、出勤するため玄関ドアを開ける私の瞳に飛び込んでくる千歳さんの玄関ドア。

帰宅した時もそう。

仕事をしていても、ふとした瞬間に千歳さんのことを考えてしまう。


……思い出してしまう。


私を呼ぶ優しい声。

柔らかい笑顔。

夜色の綺麗な瞳。

長くて綺麗な指。

その温もり。


とっくに失ってしまったもの。


情けないくらいに。

私の頭の中はすぐに彼のことでいっぱいになる。


自分が引き起こしたことなのに。

彼の拒絶が恐くて。

これ以上嫌われたくなくて。

私はもう電話をかけることもやめてしまった。

逃げてしまった。


最悪な形の自然消滅。


何度も頭をよぎるその言葉が今の私にはピッタリだと思った。



千歳さんに会いたいけれど、会って今はもう何を話せばいいのかわからない。

彼は私とはもう話したくないだろう。


……千歳さんにはきちんと謝罪をしたい。

例え、許してもらえなくても。


ただ、私がいくら謝ったところで千歳さんを傷付けた事実も、千歳さんの傷付いた心も戻らない。

私達の時間は戻らない。


それであれば。

私が千歳さんの傍からいなくなるほうが千歳さんには幸せなのかもしれない。

姿を見なければ思い出さなくて済む。



そう思うようになっていた。

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