リボンと王子様
千歳さんと話をしよう。



千歳さんが私を嫌っているかも、話したくないかも、別れるつもりかも、そうぐちゃぐちゃ悩む前に。

きちんと彼と話をしよう。


私は彼にメッセージを送ることにした。

電話ではきっと冷静になれない。

そう考えた末にメッセージを送ろうとしたのに。

私の行動を見透かすように。

社長室に呼び出された。


「ああ、穂花ちゃん。
急で申し訳ないんだけど、明日の土曜日って何か予定ある?」

「明日、ですか?」

「そうなの。
有子さんに書道の展覧会の招待をいただいたの。
私一人で伺っても構わないのだけれど、有子さんが是非とも穂花ちゃんに来てほしいって仰ってね」

「……はい、大丈夫です」


明日、千歳さんを誘いたくて、という言葉を喉の奥で呑み込んだ。

私は秘書だ。

今は職務を優先すべきだ。


……千歳さんにメッセージを送るのは来週にしよう。


小さく胸のなかでひとりごちた。

私達はやっぱりタイミングが悪いのかもしれない。


「良かった!
じゃあ、明日は直接会場に来てくれるかしら?
私はその前に一件用事があるの。
場所はここよ」


示された場所は皮肉にも。

千歳さんと出会った屋上庭園のあるホテルだった。


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