宮花物語
「もしかしたら、無理矢理……奪われたのか?」

その一言に、黒音から嗚咽が漏れ始めた。

「黒音……」

泣き崩れる黒音を、信志はまた優しく抱き締めた。

「もう、そんな夜は訪れないよ。」

「信寧王様……」

「ずっと、これから先ずっと……甘い夜しかそなたには、与えない。約束する。」


黒音の胸に中で、何かが崩れ去った。

自分は一体、何に意地を張っていたのか。

貧しい暮らしを抜け出したかった。

誰かに膝待つく人生ではなく、周りの人間全てを、自分に膝待つかせたかった。

その為には、王の妃となり、次期王の母となるしかなかった。


だが今はどうだろう。

ただこの人に、抱き締められているだけで、こんなにも心が幸せで、満ち溢れている。

「有り難うございます。」

黒音の口からは、自然にその言葉が、流れ出た。

「黒音は、幸せでございます。」

「ああ。」


その夜黒音は、生まれて初めて、安らぎの中で眠りについた。
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