宮花物語
「私を……嫌いになったか?」

「信志様……」

信志の顔が、次第に悲しみに歪む。

「……もしかしたら、村へ帰りたくなったか?」

黄杏はそれ以上、何も言えなくて、黙るしかなかった。

「黄杏……何か、言ってくれ。」

信志は顔を近づけると、黄杏の額に自分の額を付けた。


嫌いになるなんて、絶対にならない。

村に帰るなんて、そんな事も考えた事がない。

ただ、本音を言えば空しいだけ。

あれだけ、自分だけを愛していると言っていたのに、こんなに簡単に自分への歩みが遠のく事が。

勿論、黒音を推薦したのは自分であるし、何よりも自分だけの王ではない事は、理解している。

子もできないかもしれない中で、他の女に行くなとも言えない。

だからこそ、苦しいのだ。


ここで泣き叫ぶ事ができたなら。

他の女の下へ行くなと言えたのなら。

黄杏は、こんなにも苦しくなる事は、なかっただろうに。
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