宮花物語
シーンと静まり返った屋敷。

一人で呆然と、寝台に座る黄杏。


これでいいのだ。

他の妃に子が産まれれば、また通ってくれるようになるだろう。

だけど、信志様の心が変わって、お子を産んだ妃の元へ通うようになったら?


黄杏は、自分が子を身籠った時の、信志の姿を思い出した。

抱けないと分かっても、お腹の子の為に、毎晩通って隣に添い寝してくれた信志。

優しい信志だけに、子ができた妃に、心変わりするのも分かっている。


「……っ」

黄杏の目からは、涙がボロボロ流れた。

「ううっ……」

どうして、王である信志を、好きになってしまったのだろう。

他の人であれば、妃は一人しかおらず、子ができぬと分かれば、離縁して村に帰る事もできたかもしれないのに。

「うわああああああ!」


こんなに辛いのも、ただ一人、信志を愛してしまったから。

どこにも行き場のない想いが、黄杏を包み込むのであった。
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