宮花物語
「私の元へ毎晩通われているのに、情事を交わす事ができずに、いるからですか?」

信志は、口をぽかんと開けている。

「……青蘭様が、羨ましい。」

そして黄杏は、抱きしめる力を強くした。


「黄杏……青蘭からしたら、余程そなたの方が、羨ましいだろうに。」

「……そうでしょうか。」

「それはそうだろう。あの者は口では、子はいらぬと申しているが、滅びた故郷を再興する為に、子が欲しいと思うた事は、何度もあると思うよ。」

信志は抱きしめ合ったまま、黄杏を椅子に座らせた。

「なんだか今日は、いつもの黄杏とは違うね。お腹も大きくなってきて、心配事ができたのかな。」

信志は黄杏を見つめると、頭を撫ででくれた。

「ずっと、側にいて欲しいのです。」

「ずっと側にいるよ。紅梅に子が産まれてから、黄杏の屋敷だけに泊まっているではないか。」

何を言っても、笑顔でさらりと返す。

黄杏は、信志から離れた。
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