烏丸陽佑のユウウツ


ピンポン。

...あ。梨薫ちゃん...。

「どうしたんだ...」

「話があります」

話...。しかしな、こんな時間に...。部長さんのところから戻って来たのか。...何故だ。何故だじゃないか、俺のした事が納得いかなかったって事か...。文句でも言いたくなって来たのか...。

「とにかく下りて行くから、そこで待っててくれ」

「え?...は、い」

上げてくれないのって反応だな。部屋に上げる訳にはいかない。...送って行こう。



「何故来たんだ」

並んで歩き出した。やっぱり上げてはもらえないんですね。そんな顔をしていると俺には思えた。

「送ってもらいました。...部屋に帰って...来ました」

「そうか」

そうかと答えた俺も意味が解からないな。

「...陽佑さん、寒いです。手を...繋いでもらっていいですか」

「...ああ」

予期せぬ訪問者は、返事をする前に俺の手をもう握っていた。こんな事...。

「...温かい。...」

ふんわりと握ったその手を俺はコートのポケットにしまった。ギュッと握った。

「...冷たいな。よく...冷えてる」

「...フ。......一緒に見たDVDは消したら駄目だって言われました。忘れるとか、そんな男ではないだろって。私が私の中でずっと大切に思っていく男だからって、言ってくれました」

「そうか」

「...私、...」

「うん」

文句では無かったか...では、言い淀んでいるここからあるとするなら。

「...結婚とか...急ぐ話ではまだありませんが、...ずっとこの先一緒に居て欲しいって言われて...」

「うん」

...そうか。向こうもそう切り出すよな。で、それに応えたって訳だ。

「部長と、...部長は...」

言いにくいのなら、俺が言ってやるよ。

「うん。いいんじゃないか。いいと思うよ。どれだけ自分を理解してくれていて、どれだけ深い愛情で思ってくれているかを思ったら、部長さんで間違いないと思うよ。俺が女でも部長さんにするな。...ダンディーないい男だしな」

...。

「はい。婚約みたいな...大袈裟なモノではないですけど、そんなカタチで居ようって、...なりました」

「もう、これで安心って事だな」

「...え?あ、そうですね...」

「ん?部長さんがって意味でね。...黒埼君に、むやみに近づけさせない為にも。...得体の知れないバーテンダーにも、牽制になるからな。...梨薫ちゃん、俺はな」
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