烏丸陽佑のユウウツ


「じゃあ、帰るから」

「はい」

マンションに入るのを見届けると部長は帰って行った。


少し時間をおいて、部屋を出た。…寒い。急がなくちゃ。



「陽佑さん…」

ん?梨薫ちゃんが俺を呼ぶ声が聞こえた気がした。こんな時…聞こえなくていいのに、虚しい空耳だな……。

カツカツコツコツ靴音が追いかけて来ていた。…ん?……嘘だろ…。
振り向こうとしたら背中から抱きしめられた。歩みが不自然に一歩二歩と、小さく前に刻まれた。…はぁ。どうした。部長さんのところに行かなかったのか……そうか。

「私…自分の口からまだ、陽佑さんに何も言ってない。だから言っておきたいんです。じゃないと」

「…それはもう、止めよう。な?」

言えば俺の中で何かが壊れてしまう。制御は効かない。俺のマンションはもう目の前だ。
それを抑えるのは至難の業だ。腕を解かせた。

「もう、何も言ってはいけない、だから何もしてはいけない。告白はもう何にもならない」

「でも私は…」

ここまでして言おうとしている事、充分解る。今となっては、もう必要のない言葉だ。

「はぁ…俺もだ」

「え?」

「思いは同じだ。多分。あー、…間違ってないならな?」

だからもう言葉にはしないでくれ。

「…陽佑さん」

「はぁ…帰りながら話した事、聞いてなかったのか?言っただろ?俺は狡い関わり方の方を選んだって、言っただろ?」

「でも…私は…」

「もういいんだ。その方がずっと楽しくていいんだ。男と女としては何も始まらないけど、何も失わない。言わずにいるっていうのも、それはそれで悪くないんだ…ずっと楽しくやれる。
今までがそうだっただろ?俺達はそれでいいんだよ。この関係性だから成り立っていた。
何も変わらない。それがいいんだよ」

人を勝手に思う事は罪にはならない。梨薫ちゃんは部長さんを選んだ。俺を好きだった、なんて…もう口にしない方がいいんだ。

「でも、それでも私は」

もう一度抱きしめられた。

「もうしない。です。これが最後の甘えにします。陽佑さん、私は陽佑さんにずっと甘えてきました。それは、やっぱりどこかで好きだったからだと解りました。そう思ったら私のしてきた事に納得できたんです。
改めて、何度も抱きしめられてドキドキして、抱き着いて、やっぱりドキドキしました。
ごめんなさい、どうしても言っておかなきゃ気が済まなくて。…陽佑さん、好き…好き…」

「…はぁ。本当に…我が儘だな。何で言うかな…。言うなって言ってるだろ?で?これで、梨薫ちゃんは気が済んだのか?」

「え?はい!」

あ…はぁ。はい、ってなぁ…。もう…はぁぁ。…どうしてくれるんだよ、本当に…。

「もう…戻ってくるのを待ってるぞ?」

「えっ?それ…どういう意味…」

「梨薫ちゃんの行動、心理、完全に読まれてるぞ?凄い人だな。…ほら」

「え?…え、あ…部長?」

音もなく車が近づいていた。停まった。
腕を解いた。

「…早く行け。待ってるって言った意味は、…部長さんの事だ」

「え、あ」

「…大丈夫だ。多分、怒られたりしないはずだ。何もかも、お見通しって事だ。さっきのままではまだ心配だったんだよ。ちゃんと終わったって言うんだ、いいな?」

「あ、はい。…行きます」

…はい、ね。…本当に俺の事、恋愛対象として好きだったのか?あんまりあっさりだと解らなくなるよ。まあ、決めた事だし…。終わりだ。……ここで俺が連れて帰るってなったら、修羅場の始まりって、な。
出来なくはないパターンなんだが。…フ。…フフ。

しかし、部長さんは凄いな。さっきは連れて帰らなかったって事だ。まだ終わり切ってないって、解ってたんだな。凄過ぎて敵わない。で、これで、綺麗に終わったって事だ。…ふぅ。

…だから…好きだったとか…言うんじゃないって言っただろうに。…はぁぁ、遣り切れないだろ、俺。本当、…フ。…切なくて寒いわ。

黒埼君にも、その内、迷いがなくなったって話すんだろうな。落ち込むだろうな…。
溜め息つきながら、店に来るかな。

そうなったら、仕方ない、泊めてやるか…。
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