烏丸陽佑のユウウツ
…これ以上、聞く気になれん。というか、平常心が保てなくなりそうだから止めてくれ。グラスを拭く手にも余計な力が入るってもんだ…全く、人の気も知らないで。話すかね…普通こんなに詳しく。…言わないだろ。

「あのな、解ったから。そんなに、何もかも言わなくていいんだ」

頼むから止めてくれ。

「あ、はい。その日、部長と一緒に会社から帰った事を黒埼君がここに話しに来て。陽佑さんとあれこれ話していて…」

あ?ここから夢の話になったのか?今のがここに繋がる訳か。そうだよな。それで、俺と黒埼君の何が濃いんだ?話していた内容って事か。

「……陽佑さん」

「うん?」

妙に言い澱んでるけど…なんだ、部長さんとの事以上に凄い話か。まさか本当に俺と黒埼君が絡み合ってたとか言うんじゃないだろうな。だったら詳しく言わなくていいんだからな。梨薫ちゃん今日は随分と赤裸々トークするから。見たまま、事細かく言っちゃいそうだよな。
いやぁ、例え夢だとしても、そんな絡んだ内容を聞かされたら…黒埼君が来た時、俺、想像して意識してしまいそうだ。どっちがどうなんだ…。あ、…いやいや。本気で想像してどうするよ…。


「…陽佑さんは私の事、…好き?」

…はっ?!……な、なんだ、いきなり…この流れは。いくら何でも、心の準備ってもんがあるだろ。好き?て、何の為の確認だ。俺の気持ちなんて俺が一番解ってるけど…こんな風にいきなり聞かれて、正直に、はいそうです、と答えてどうするって話だ。…ふぅ、取り敢えず落ち着け。一呼吸置くんだ。それに…。
今更…それを確認してどうするんだ…。

「あー、それってあれか?つまりは夢の中で、俺が何か言ったって事なんだろ?」

何を告白していたとしても所詮は夢の話だ。そこから気持ちを確認されてもなぁ。そっちはどうなんだって話だ。
まあ、部長さんに返事をした訳だから、…俺に気持ちは無いわな…。

「うん、そうなんです。黒埼君は部屋で一緒に居ると、確かに不意に抱きしめたりします。それに私、何だかよくキスしてるんですよね…」

ん?好きかどうか、答えなくてもよくなったのか。ん?そこは現実の話になったのか?…ぁあ?黒埼君とキ、ス、だと?…はぁあ?…今日は何て日なんだ。

「それは夢の話じゃないよな?」

普通に聞いてる俺もどうなんだ。

「あ、はい。これは普通に日常の話です」

に、普通に日常だと?キスは習慣付いてるとでもいうのか?…何だよそれ。何だかそれって可笑しくないか?…。それって、当たり前に彼氏彼女の間でする事じゃないか…。抱きしめてもいるんだろ?それで二人は何でもないなんて…可笑しいだろ…。部長さんとの気持ちとは違うって、はっきりした別枠とでも言うのか?

「されても…何だか怒れなくて。私も、可愛いって思ってる気が優先しているのか…。はぁ…、黒埼君は何をしても憎めないようなところがあって」

何をしてもって…それは駄目だろ…何言ってる。だったら迫られたら最後までシちゃうのか?許しちゃうのか?だけど、あれか…、キスくらいはって事じゃないけど…可愛い黒埼君だから、そこは受け入れてしまうって事か…。だから、それもどうなんだかだろ?黒埼君の事、どう思ってるんだ。弄んでるようなモノじゃないか。

「強く拒否しないのがいけないんでしょうけど。稜の弟だって知る前から、弟ぽかったというか、つい可愛いく思えて…。私もそれを理由に、…しちゃうのは、やっぱり狡い考え方ですかね」

はぁ…狡いだろ。それが黒埼君の悩みの種の部分でもある訳だし。

「俺は…特に何も言わないでおくよ。何か言って気持ちを左右する事になってもいけないから。弟みたいに思っていて、許してしまうって。そう考えたら、彼はもう、いつも側に居て欲しい存在かも知れないって事かも知れないだろ?」

…あ、いかん。言わないと言いながら、何気に意見してしまったか。それに黒埼君を後押ししてしまったかな。

「…う、ん。気がついてないだけで、そうなのかな…。そうなのかも知れないですね…」

ハハハ。肯定させてしまったかな…。
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