烏丸陽佑のユウウツ
はぁ。ふぅ……はぁ。息を整えた。…全く、…中年を何度も走らせるんじゃないよ…。走ってるのは俺の勝手だけど。
梨薫ちゃんの部屋の階に止まった。
降りたら見えた。ドアの前でこっちに顔を向けて立っていた。あっ、と声が聞こえた。俺だと解って駆け寄って来ていた。
「陽佑さん…どうして?…」
「それは俺が知りたい…どうした…何で…どうした」
「俺はいつもの事、ってとこですよ。来てみたら居なくて、また鍵が差さったままだったから、待ってようと思って。今回は中に入っちゃ駄目だと思って。それで外に居たら陽佑さんが」
「ちょっと前に帰って来なかったか?」
「え?いいえ?俺、ずっと居たけど帰って来てないですよ。何かあったんですか?こんなに慌てて」
「あ…いや。何かって事じゃ…。可笑しいな…さっき下まで送って来たんだ。じゃあ、どこに行ったんだ。確かにエレベーターには乗ったんだ。確認したから」
「え?陽佑さんと一緒だったんですか?」
「あ、ああ。店に、閉店する頃に来たんだ。時間も時間だし、だから送って来たんだ。…どうなってるんだ。部屋には入ったっていうメールも来たんだ」
「可笑しいですね。じゃあ…それは嘘って事になりますね。帰って来たけど、俺が居るのが見えたから…。それで降りずに下に戻ったのかも知れない…」
今更、そんな逃げるような事はしないだろ。困るなら困ると話せばいい訳だから。
「何か待ってる間に連絡とかしてみたのか?」
「いいえ、来てる存在はいつも知らせないですから。俺は来た時は留守ならただ延々いつも待ってるだけなんで」
「そうか…そうだよな、いつ帰って来たか、会ってないなら今日は解らない事だ。ちょっとメールしてみるか…待てよ」
「あ、はい」
【部屋に居ないじゃないか、どこに居るんだ?】
…。
「…はぁ。返して来ないな。となると、何か考えがあって行動してるのか、んん、さっぱり解らん。ここに居ないのは何故なんだ。こんな時間じゃなきゃ、これ程心配もしないんだが。そろそろ仕事上がりの酔っ払いも増える時間だしな…どこに居るんだ、うろついていては危ないだろうが」
「また店に行ったとか、無いですかね」
「それは無いな。行ったって俺も居ないし、入れもしない」
「あ、そうか…。陽佑さんが送って来たんだった」
「黒埼君のところは」
「え?いや、それは無いです。俺の部屋は場所さえ知らないし、一緒に住んでる連れも居るんで。そもそもです、行く理由も無いでしょ。連れに確認してもいいですけど、する必要はないと思います」
「まあ、それは俺達が判断しても解らない事だ。部屋だって知ってるかもしれない。何か思い立ったら行くかも知れないだろ?じゃあ…部長さんのところか。…そうか」
「あ…、そうなんですかね。でも、こんな時間に…いくら何でも行きますかね」
「突発的に思い立ったら、無いとは言い切れないだろ…。何かしら返事をしたくなったら、あの性格だ。向こうだって訪ねて来た梨薫ちゃんを拒否はしない、寧ろ、時間なんか関係なく受け入れるはずだ」
「梨薫さんですから…」
「…そうだ。そうだとしたら…心配は心配でも、もう、してもどうしようも無いか…」
部長さんのところだとほぼ決めつけてしまったが。それならそれで、取り敢えず安心なんだ。
「んー、俺、一応ここに居てみます。待ってます。俺を避けたとしても今まで帰って来なかった事は無いですから。仕事だって行かなきゃいけないし」
「…うん。…そうだな。じゃあ、黒埼君はいつも通り居てみてくれ」
「はい。あ、陽佑さんはどうします?」
「俺は…まぁ、適当に、だ」
「俺も連絡入れてみます」