烏丸陽佑のユウウツ
「相変わらず無愛想ね…それに今日は特に仏頂面だし…。貴方みたいな人、つい最近も見たから。すっきりしない顔をしていたわ」
誰の話だよ。
「何も聞いてない?私が言わないって言ったからかしら」
だから、何の話だよ。
「思い悩んでいる事に答えは出たのかしら」
だから…解らないまま話すなよ。誰も彼も自分の話したい事優先だな。説明しろよ。
「誰の話…」
「私が貴方に関係ない人の話をする訳ないでしょ?大切なお客様の、武下梨薫さんの事よ」
「あ、ここに…来てたのか。いつだ」
「知らないわ」
あ゙、もう…どういうつもりの話だよ。
「……朝なのに、何だか、そのまま来たって感じだったわよ?前日のまま、みたいな、そんな感じの見形?まぁ何かなきゃ、急に来たりしないわよね、こんなとこ。決めたい事でもあったのかも知れないわねぇ。会ってないの?」
「…関係ないだろ」
「そうね、関係ないわね」
だったら聞くなよ。
「何しに来たの?」
はぁあ?知らないよ。あぁ、俺の事を聞いてるのか。
「貴方よ。忘れに来たの?それとも考え直しに来たの?」
はぁ、全く…歳は取っても、恐ろしい程、恋心には敏感だな…。
「別に…そんなんじゃない。疲れたからぼーっとしに来ただけだ」
「そう…お疲れなのね。余程なんだ」
で、何だよ、終わりか。まあ、言いたくなけりゃ聞かないって事か。
「陽佑、貴方いくつだっけ」
「はあ?……貴女の愚息は、今年35ですけど?」
「何よ…いい年齢じゃない」
どういう意味の、いい、なんだよ…。
「男として、凄くいい年齢よ。…仕事を取るも良し。そう思ったら、最後だってつもりで頑張ってみたら?」
何をだよ。…じゃないよな。これは恋の話だ。“いい歳”した男が、母親から恋愛指南か…。
「恋する気持ちって、そうね、年齢からさすがにもう恋とは言わなくなる…人を好きになる気持ちって表現に変えてしまうけど。
当然だけど年齢で思い方も変わってくるものでしょ?そんなに激しい情熱も感じなくなってくるもの。
まだ人を好きになれるなんて貴重な事よ」
「まあな…」
あ…しまった、うっかり賛同してしまったじゃないか。
「フ。自分の気持ちばかりを優先出来なくもなってしまう…もういいかって思ったら、次は面倒臭くなって始められないかも知れないし。穏やかに好きになっちゃて…大人は複雑よね」