烏丸陽佑のユウウツ


「相変わらず無愛想ね…それに今日は特に仏頂面だし…。貴方みたいな人、つい最近も見たから。すっきりしない顔をしていたわ」

誰の話だよ。

「何も聞いてない?私が言わないって言ったからかしら」

だから、何の話だよ。

「思い悩んでいる事に答えは出たのかしら」

だから…解らないまま話すなよ。誰も彼も自分の話したい事優先だな。説明しろよ。

「誰の話…」

「私が貴方に関係ない人の話をする訳ないでしょ?大切なお客様の、武下梨薫さんの事よ」

「あ、ここに…来てたのか。いつだ」

「知らないわ」

あ゙、もう…どういうつもりの話だよ。

「……朝なのに、何だか、そのまま来たって感じだったわよ?前日のまま、みたいな、そんな感じの見形?まぁ何かなきゃ、急に来たりしないわよね、こんなとこ。決めたい事でもあったのかも知れないわねぇ。会ってないの?」

「…関係ないだろ」

「そうね、関係ないわね」

だったら聞くなよ。

「何しに来たの?」

はぁあ?知らないよ。あぁ、俺の事を聞いてるのか。

「貴方よ。忘れに来たの?それとも考え直しに来たの?」

はぁ、全く…歳は取っても、恐ろしい程、恋心には敏感だな…。

「別に…そんなんじゃない。疲れたからぼーっとしに来ただけだ」

「そう…お疲れなのね。余程なんだ」

で、何だよ、終わりか。まあ、言いたくなけりゃ聞かないって事か。

「陽佑、貴方いくつだっけ」

「はあ?……貴女の愚息は、今年35ですけど?」

「何よ…いい年齢じゃない」

どういう意味の、いい、なんだよ…。

「男として、凄くいい年齢よ。…仕事を取るも良し。そう思ったら、最後だってつもりで頑張ってみたら?」

何をだよ。…じゃないよな。これは恋の話だ。“いい歳”した男が、母親から恋愛指南か…。

「恋する気持ちって、そうね、年齢からさすがにもう恋とは言わなくなる…人を好きになる気持ちって表現に変えてしまうけど。
当然だけど年齢で思い方も変わってくるものでしょ?そんなに激しい情熱も感じなくなってくるもの。
まだ人を好きになれるなんて貴重な事よ」

「まあな…」

あ…しまった、うっかり賛同してしまったじゃないか。

「フ。自分の気持ちばかりを優先出来なくもなってしまう…もういいかって思ったら、次は面倒臭くなって始められないかも知れないし。穏やかに好きになっちゃて…大人は複雑よね」
< 34 / 105 >

この作品をシェア

pagetop