烏丸陽佑のユウウツ


「帰って来た梨薫さんを見てたら、様子が可笑しい事くらい、俺にだって…そのくらい解りました。…本当は何かあったんじゃないですか?」

「何もかも話す必要はないと思うが、ここでは何も無かった。勘繰り過ぎだ、本当だ」

「はぁ、じゃあ、それだ」

「…何」

「何もなかったから、だからですよ」

…。

「梨薫さんがここに来たのは、何かして欲しかったからじゃないんですか?なのに陽佑さんは、何もしなかった。後で、…する予定はあったのかも知れないけど…」

「は?そんな事は…」

「はい、解りません。梨薫さんの内にあるモノですから。そうじゃなかったかも知れない。はっきり言わないと解らないと思います。でも、でもです。それは…敢えて口に出して言いたい事ではなかったんじゃないですかね」

俺に察してくれって事か。何も言わずに、会った時から…俺に期待したって、事か…。そうなのか?それはどうかな。それは俺に取ったら都合のいい解釈になるんじゃないのか?

「はぁ…。これ以上は言いたくありません、具体的には嫌です。来た時、ああして、こう言って欲しかった。時間にしたら、そんなに長くなる事も無いと思います。それがあれば、何時間だってここでドキドキしながら…どっちの部屋でもいい、一緒に帰るのを待っていたと思います。そして…。はぁ…違いますかね。あー、もう、殆ど勢いで言ってしまったじゃないですか。あー、あくまで想像ですからね?…俺は。…やっぱりもう帰ります。帰りに梨薫さんのところに寄ります」

「そうか」

「あ、もう。どうしてそんな…。何が、そうか、ですか。…も゙う。まあいいです。おやすみなさい」

「…梨薫ちゃんはな」

「はい?」

「海に行ってたんだよ」

「あ、は、どうして…陽佑さん知ってるじゃないですか。聞いてないって、言ったじゃないですか」

「違う、聞いてない。本人からではない。たまたま別で知っただけだ」

身内情報だがな。

「まさか…、居ない居ないって探してる振りで、実は一緒に居た訳じゃないですよね…」

「馬鹿な事を言うな。何でそんな面倒臭い事をする。本当にそう思ってるのか?違うよな?」

「はい、違いますよ。思う訳ないじゃないですか。…はぁ、ご覧の通り、勝手に苛々したから言っただけですよ」

…。

「おやすみ」

「あ、もう…何なんですか。ふぅ…おやすみなさい。今夜は絶対、俺、梨薫さんの部屋に泊まりますからね?泊まりますよ?追い出されても外に座り込んで、ずっと居ますから。じゃあ」

…。

はぁ、…子供みたいな言い方をして…。相変わらず、真っ直ぐで解り易い男だな。あれは、俺を奮い立たせるつもりで言ったのか?煽ったつもりか。解ってるさ。正解かどうかは、してみてないから解らないけど。…抱きしめて、良かった、心配したぞって、俺が直ぐしておけば良かったって事だろ?そしたら、その先も…。
だけど、俺は何もしなかったんだから。時間は戻せない。今、それをどうこうやり直せる訳じゃない。だから…気持ちは無いのと同じだ。あったとしてももう冷めさせてしまった。仕方ないだろ?
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