烏丸陽佑のユウウツ


「悲鳴を上げさせるのを止めるのと、落ち着かせる意味もあったし、当然、俺の方は帰って来て会えた嬉しさも安心した部分もありました。いつも以上に抱きしめずにはいられませんでした。
落ち着いたら、…フ、いつまでこうしてるつもり、なんて言われて…、いつも通りだなと思っていたら、とにかく上がって、と言われ、部屋に上がりました。
コーヒーを入れて貰って飲み、一息入れたところで、俺は、帰りませんよと言いました。まぁ、これもいつもの事ですけど…そして、泊めてくれました。だから、いつものようにソファーに横になりました。ここ迄はこんな日なら許される行動です。そしたら、です。
陽佑さんから連絡が来ました。梨薫さんから連絡は無いか、って。…妙な時間帯にです」

…。

「俺は眠れてなかったから、携帯が震えているのが直ぐ解りました」

「それが俺の…遅い連絡だった訳だ」

「はい。本当はもっとずっと早い時間に陽佑さんのところに来てたって事ですよね。梨薫さんが部屋に戻って、開いている事を確認して直ぐ行った先は陽佑さんのところだった…。
俺はまだ何も、梨薫さんの口から聞いてません。どこに行っていて、戻って、どこに行っていたか。聞いては無いんです。関係ないと言えば、関係ないでしょうから。梨薫さんはお風呂に入ったらベッドルームに行きました」

「俺も特に何も話してない。店に来た梨薫ちゃんを裏の部屋で待たせただけだったから」

…。

「…そっか…梨薫さんが帰って来たのは…陽佑さんに邪険にされたからなんですね」

「邪険てな…。確かに素っ気なかったかも知れないが、仕事中だ、しかも接客中だった。…タイミングだ。長く外している訳にもいかなかったんだ。いつもの事だ」

はぁ…、今となっては、きちんと相手をしなかった事、…後悔してるよ。

「その方が黒埼君的には良かっただろ?」

俺が梨薫ちゃんの部屋に行った時、梨薫ちゃんが出ようとしたのを後ろに隠すようにした…。あの時の黒埼君の顔は、渡しませんよって、ちゃんと男の顔をしてたじゃないか。

「邪険にされたという気持ちで帰って来たのなら、…そう思ったのなら、話を聞いてやれば良かったじゃないか。次の日は休むって言ってたんだろ?自分が寝ないで話をしたら良かったじゃないか。梨薫ちゃんの方は疲れていても後で好きなだけ眠れるんだから」

「邪険も何も、何をしていたのか、行き先だって知らなかった訳ですから。俺は、…朝、早めに帰りました。泊めてはくれましたけど、梨薫さんから何も話さないという事は、基本は一人で居たかったのでしょうから。…いつも通りです。平日の梨薫さんが起きてくる時間になる前に、帰りました」
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