烏丸陽佑のユウウツ
・たかが恋、されど…。


「...はぁぁ」

「ん、大丈夫か?」

「何だか少し...悪酔いしちゃったみたいです。...ふぅ」

…ふ~ん。夢の話を話し切って、多少すっきりしたのか。モスコミュールをお代わりしてからも、何杯かカクテルを飲んでいた、そのせいか。ま、アルコールとしては大した量じゃない。しかし…、梨薫ちゃんは夢を信じてしまいそうだから…どうなって行く事やら。…んー。

「もう少ししたらしまうから。裏で休んどくか?閉めたら送って行くから」

寝落ちした訳でも無く、顔をカウンターに伏せたまま今まで静かにしていた。

「…いいんでしょうか」

「ん?何聞いてる、いいよ…今更だろ。じゃあ…、ちょっと待てよ。…ん、よし移動するか」

手を洗って拭き、カウンターの中からフロア側に出た。

「あー、はい」

「立てるか?」

立ち上がる時、腰を支えるつもりで側に立っていた。

「あ、はい。それは大丈夫。…よいしょ」

念の為、手を取り、立ち上がるのを待ったが、少しぐらついた程度でよろける事も無く、足取りは確かだった。
バッグは俺が持った。


裏に回って部屋の鍵を開けた。

パチッと明かりを点けて、中に入るよう腕を回し促した。

「さあ、入って。取り敢えず座るか。何も変わった事は無い。じゃあ、まあ楽にゆっくりしてて?俺戻るから」

「はい。すみません…有り難うございます…」

言い終わらない内に腰掛けた状態からベッドに突っ伏した。...フ。布団を見て気が緩んだか。
横になった方が楽だもんな。

「水、置いとくぞ?それからバッグな?いいか?」

冷蔵庫から取り出した水と、バッグをテーブルに置いて少しベッドに近くなるよう引き寄せておいた。

「あ、はい...、わ、有り難うございます...」

チラッと見てまた、うつ伏せた。久しぶりって感じだな。梨薫ちゃんがこの部屋に入るなんて。

「どうでもいいけど、ちゃんと布団掛けとけよ?もう真夏じゃないんだから。うっかり眠ってしまったら風邪ひくからな?聞いてるか?」

顔は伏せたままだ。中々返事が返って来ない。触れられる範囲で頬に触れ、頭に手を置いた。いいかって、確認のつもりだった。

「……解ってます…すぐ篭りま〜す」

やっと返事をしてごそごそと動きだし、端に寄ったと思ったら、布団をめくると身体に掛けた。肩まできっちり引き上げ、巻き付けるようにして隙間を埋めた。あ...フ、全く。蓑虫か、って。まあ、こんな調子ではその内寝てしまうだろうな。

「寝るだろ...ま、寝てたら起こすから」

「...はい。...お願いします」

...ふぅ。どうやら、今夜帰る気はあるみたいなんだな。

「明かりは?どうする?」

「...暗めに、点けておいてください」

「あぁ、解った」

暗めにってな...。試しに二列の明かりの一つを消した。ほぼ変わらない、よな、これ。

「これじゃあ明るいからさ、消してテレビ点けて消音しとくわ」

言った通り、テレビを点け消音し、明かりをパチッと消した。

「これでいいだろ。じゃあな」

「...はい、......すみません」

リモコンを枕元に置き、もう一度頭に触れ部屋を出た。

特に反応はない。...もう、寝たかな。

< 5 / 105 >

この作品をシェア

pagetop