烏丸陽佑のユウウツ
予定の一月をニ週間も残し、修繕は終わり、梨薫ちゃんはまた元の部屋に戻ったと黒埼君が知らせて来た。
変わった事があったから連絡したんですよ、と。一先ず、一安心という事なんだろう。抑え気味に知らせて来たのは、敢えて嬉しさを隠しての事だろう。
…別に、俺に知らされても、特に何も感じない…。まあ、誰かに言いたかったんだよな。本当は、やったー、部屋に戻りましたよ、ってね。
屋上の修繕なんて、ひび割れを埋めて防水塗装して、さらに塗装して終わりだろ?そんな感じだろ?
費やした日数なんて、業者の予定次第って事じゃないか。取り掛かるまでに日数が掛かったようなものだ。あと天候もか? ちゃっちゃとやればとっくに済んでる事だ…。あー、内装もか、天井の板…。
梨薫ちゃんは早く終わって良かったと思ったのか、それとも、もう終わっちゃったと思ったのか…。まあ、戻って来たのなら、黒埼君はさぞやほっとしたに違いないけど。また梨薫ちゃんのところに押しかけられるじゃないか。良かったな。今夜辺り、無事に戻って来たお祝いですとか言って押しかけてるんじゃないのかな…、無事って何よ、とか言われてさ…。フ。…はぁ。
んー、時間も時間だ、そろそろしまうか。お客さんもそんなに残っていない。
外に出てプレートをCLOSEDに返した。戻ってネオンのスイッチを切った。
ご馳走様、おやすみ、挨拶をして客が各々帰って行く。
グラスを片付け、店の中を簡単にしまう。後は…朝でもいいな。
ドアに鍵をしようと手を掛けた。
カ、チャ。
おわ、不意にドアが開いたのにつられて身体が泳いだ。
「あ、申し訳ない。ご迷惑でしょうが、お店が終わるのを待っていたものですから。大丈夫でしたか。突然すみません、少しよろしいでしょうか」
何となくだけど、目の前の人物が誰か解った気がした。黒埼君が初めて来た時も。あの時はもっと解りやすかったな。
もう、どうぞ、と返事をしていた。
男は、失礼します、と、店の中に入った。