烏丸陽佑のユウウツ
外に出ると空は鈍よりと曇っていた。裏から出て鍵をかけて歩いていた。
普段ならコツ、コツとゆっくり響くヒールの音も、今は気持ち早めで歩くせいか、カツカツと焦ったように反響していた。
男と女の…本当の意味で訳ありの朝帰りだな。

「酒はどうだ?抜けたか?」

「あー、抜ける程というか、そんなに飲んで無いから…まあ、平気です。大丈夫です」

…そうなのか。気分も悪そうでも無いな。梨薫ちゃんは出る時に持って出た水を口に少し含み飲んだ。

「俺にもくれるか、それ」

「え?あ、はい」

キャップをしようとしていたボトルをどうぞと差し出されて受け取った。

「…ふぅ。…まだ要るか?」

戻す格好で聞いた。

「私はもう大丈夫です。陽佑さん…ほぼ毎日こんな感じ?」

キャップを渡された。グリグリと必要以上に締め付けていた。

「ん?アルコールか?」

「え?…あー…うん、そう」

「何…心配してくれてるのか?」

口の部分を指で挟むようにして持ち、歩いた。

「それとは違うけど…」

「フ。…そうだなぁ。無理して飲む事は無いけど。ほら、俺、ホストとは違うから。まあ…綺麗なお嬢さんに、一杯どうぞ、なんて勧められたら断れない商売だからな。それが多い時は気がついたら結構飲んでるかな」

その程度で酔う事は無い。

「…知ってます?」

「何を?」

「陽佑さんの職業、3Bて言われてる一つらしいですよ」

「あぁ、知ってる。客との会話で出てきた事があった。巷で、つき合ってはいけないって言われてる職業の事だろ?後は美容師とバンドマンだ。陽佑さん、本命作るのは厳しいですねって、何気に言われたよ。大きなお世話だってーの」

「フ、知ってたんだぁ」

「まぁな」

だからってな、そこは人それぞれだからな?
バーテンダーとは時間が合わないから、つき合い辛いとか、どうしても女性に関わりがありそうなイメージが付き纏うだとか…。酷いもんだよ。最初から全否定じゃないか。
そういうところ、よく理解した上でないとつき合いは難しいだろうってな。彼女になったら彼の店には飲みに来ないのが得策だ、ってな…。まあ、それは一理あるかな。
女性を相手に一対一で楽しく会話しているところなんかを見て…嫉妬するだけで、いい事なんて何も無いって、な…。
綺麗なお嬢さんに勧められて飲むとか話したから、こんな話をし始めたのか?
そこに嫉妬したって事では無い、よな…。

「勝手に色々と言われちゃうものですよね」

「まぁ気にしても仕方ないさ。人のイメージだ、放っておけばいい。俺みたいに真面目~なバーテンダーにとっては迷惑な話だな」

「…」

黙るなよな。否定するなり肯定するなり、この際どっちでもいいから突っ込んで来いよ…。俺は…まあ、真面目じゃないけど…無責任では無い…。その程度だけど。

「…私と、朝、こんな風に歩いてるなんて…」

「ん?」

「親切にして貰って、こんな風に二人で歩いているところ…事情を知らない、陽佑さんを好きな人が見たら、なんて思うんだろうなって思って…」

「ん?そんなのはな…」

「駄目ですよね」
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