烏丸陽佑のユウウツ


こっちに来たからといって何の用がある訳でも無い。約束も無い。
かと言って来たついでのように実家に顔を出すのも気が引ける。

行かなくても何だか会うような気はするがな...。

ピンポ〜ン。

ん?...まさか、こんな時間に...だよな。

「陽佑?居るでしょ?陽佑〜?」

もう入って来てるのか。

「二階だ〜」

はぁ、わざわざ来たのか...、何だよこんな時間に...。
そっちこそ何をうろうろしてるんだって話だ。

「ちょっと?下りて来て?」

こっちに上がって来るのかと思ったら。...はいはい。今、行きますよ。


「...何」

下りてみると発砲スチロールの容器を提げていた。

「貰ったからおすそ分けに来たのよ」

テーブルに置くと蓋を取った。

「...何もこんな時間に、...お」

「ほら、伊勢海老ちゃんよ。海老、好きでしょ?だからあげる。車えびも居るわよ...ほら、ね?」

蓋を取られた箱の中で...生きていた。触角というのか、それが動いていた。籾殻の中で車えびも動いていた。
帰って来てるとも連絡してないのに、よくこのタイミングで...しかも夜中...。そうか。明かりか。
遠くからでも見えたって訳か...なるほどな。帰って来るかもって観察でもしてたのか。
家に明かりが点いていたらそりゃ居るわな。


「じゃあ、帰るわね。美味しく食べてあげてよね」

「おい、大丈夫なのか、道、暗いだろ」

この辺りは街灯なんて洒落た物はほぼ無いに等しい。

「...大丈夫よ。一人じゃない、...待たせてるから」

あ?あー、ゲンか。

「今年の事は今年の内にね」

...は?いきなり何を言ってるんだ。

「新しい年は、また新しくよ」

...全く。何を知ってるんだか。来た目的は、それを言う為来たんだな。返す言葉は無い。

「いいのか?こんなに」

「いいも何も、好きでしょ?」

「...まあな」

「だったらいいじゃない。じゃあね、...良いお年を」

「あぁ。...母さんもな」
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