いつか羽化する、その日まで
「サナギちゃん! 髪! 切っちゃったの?!」
ぎゅっと力を入れられた肩が揺れ、はらりと髪の毛が頬にかかる。私は内定を貰ってすぐ、長かった髪をショートボブにしていたのだ。村山さんの目が漫画みたいにまん丸になっていて、思わず笑った。
「そう言う村山さんの方がビックリしてます」
「そりゃそうだよ。ああでも、なんかいいね、こういうの」
驚きに染まっていた顔がくるりと表情を変えて、今度はにこにこしている。本当に、見ていて飽きない人だ。優しげに微笑むその顔をもっと見ていたくて、私は黙ったまま続きを待った。
「遠距離恋愛中でなかなか会えないカップルみたいでさ」
「へっ?!」
そうだった。村山さんはこういう人だったのだ。あの笑顔は何かを企んでいる時の顔だって、昨年の夏散々学んだではないか。美談だけではなかったはずなのに、思い出の美化とはよく言ったものだ。勝手に顔に熱が集まってくるけれど、簡単に騙されてはいけない。
「それってーー」
冗談ですよね、と続けようとした私の声は別の声によって遮られた。
「ーーそれは、私への当て付けですか?」