いつか羽化する、その日まで

ーーガサガサ。


近くでした音に驚いて顔を上げると、目の前にあった紙の束が突然半分になっている。


「あれ?」

「手伝うよ。……と言うか、手伝ってくれてありがとね」


頑張って午前中に終わらせよう! と、元気な声がする。隣を見ると、村山さんが紙を折り始めたところだった。


「あっ、あの……」


きっと忙しいだろうに、私の作業が遅いせいで気が散ってしまったのかもしれない。慌てて止めようとしたが、村山さんはあの笑顔で私の言葉の続きを遮った。


「今日は佐藤さんが休みだから、サナギちゃんひとりで頑張ろうとしたでしょ。ダメだよ、何でもひとりで抱え込んじゃ。仕事はチームプレイだからね、皆で協力すればすぐだよ」

「……」


そう言われて、胸の奥が温かくなり気持ちが軽くなった気がした。

お礼を言おうと口を開いたが、それよりも早く村山さんの方が立ち上がる。

そして。


「……と言う訳で、僕の半分は小林さんに渡そうっと」

「むっ、村山さん! 小林さんはまだ電話中ですよ!」

「大丈夫。小林さんは優しいから」


村山さんが小林さんの机にどん!と紙の束を置くと、小林さんは電話で話しながら村山さんのことを思いっきりにらんでいた。


(私の感動を返してください……)


ーー先ほど腕を伸ばしてきた彼からふわりと香ったのは、オレンジだろうか。それともレモンだっただろうか。

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