いつか羽化する、その日まで
・・・・・

「はあ」


誰にも知られないように小さくため息を吐く。
ちらりと隣を盗み見ると、村山さんはカチカチと素早くマウスを動かしていた。続いて斜め向かいを見ると、小林さんはどこかへ電話をかけている。始業時間になって、まだたったの五分ほどだというのに、二人ともキビキビ働いている。

もう一度ため息が出そうになり、唇を引き結んで飲み込んだ。私は手元に積まれた沢山の紙の束を見つめる。

それは、取引先と協同で開催する展示会の案内状だそうだ。
私に与えられた最初の仕事は、この大量の案内状の封詰めだった。紙を綺麗に三つ折りにするのは、簡単そうに見えて意外と難しい。


昨日中村所長からは『いきなり雑用みたいな作業を頼んでごめんね』と謝られたけれど。正直に言うと、私にできる作業でほっとしていた。

印刷から全て自分たちで行っていて、やっと刷り終わったところだったらしい。聞けば、印刷会社に印刷から封詰めまで依頼すると、軽く数十万円はかかるのだとか。……安易に何でも「業者に頼めばいいのに」と思うものではないな、と反省してしまった。

今日は事務員の佐藤さんが休みのため、私ひとりで終わらせなければならない。
昨日つかんだコツを忘れないうちに取りかからなければと紙を折り始めたが、作業していても今朝のことが頭から離れない。


ーー社会人と学生は、こうも違っていただなんて。


私が出社したとき、村山さんも小林さんも当たり前のように掃除をしていた。
営業職って、外回りだけでいっぱいいっぱいで、それても会社に戻ってきてから残作業に追われて、くたくたになって家に帰るイメージだったのに。

二人は、朝から疲れさえ感じさせないほど生き生きしているように見える。その様子を見ていると、明確な目標もない私は羨ましくなってしまった。

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